副パイロットとして生成AI活用し、利用した職員の半数が50%以上の作業時間効率化を実感 茨城県取手市

今回は、茨城県取手市情報管理課の、課長 岩﨑 弘宜さん、デジタル化推進室長 松﨑 昌也さん、デジタル化推進室係長 下市 聡さんにお話を伺いました。

取手市における生成AI活用の背景や、実際の活用方法、研修やガイドラインの作成などについて伺い、特に「業務の副パイロットとしての活用」という考え方は、多くの自治体や企業にとって参考になると思います。

ぜひご覧ください。

プロフィール

岩﨑 弘宜さん

取手市情報管理課長。1992年旧藤代町役場(2005年、取手市と合併)入庁。大半を議会事務局において議会愛をモットーに議会改革に従事。2023年4月より現職。市の情報管理はじめ生成AIや音声認識システムの活用など自治体DXを推進。また、長野県千曲市、茨城県阿見町議会の議会改革アドバイザーを務める。

松﨑 昌也さん

取手市情報管理課デジタル化推進室長。2009年に取手市役所入庁後、教育委員会にて小中学校のパソコン整備事業などに従事。その後人事課を経て、2022年4月より現職。主に市のデジタル化推進の役割を担う。

下市 聡さん

取手市情報管理課デジタル化推進室係長。2008年に取手市役所入庁後、介護保険事務担当課、廃棄物処理事務担当課を経て、2016年4月より現職。庁内のデジタル化推進のほか、マイナンバー制度事務も担当している。

音声認識と生成AIを組み合わせたシステム開発

Q:生成AIに関する取り組みを行った背景を教えてください。

岩﨑さん:議会事務局に所属していた時代に、音声認識システムを開発管理運営している株式会社アドバンスト・メディア社さんと取手市、取手市議会の三社で音声テック協定を結び、AIや音声認識を用いた業務効率の向上や市民福祉の増進、議会機能の強化を目指す取り組みを進めていました。

そこで、一昨年の11月頃からChatGPTに関する報道が増え、その活用可能性を探っていました。その際、「議会だより」の要約を人力ではなく生成AIを用いて行うことで、早くかつ正確に議会広報を発行することが可能ではないかと考えました。そのため、ChatGPTのような生成AIを組み込んだ要約システムの開発に取り組み、試行錯誤していました。

その後、執行機関の現在の部署に異動し、行政の分野でもこの技術の活用を検討し始めました。各課で行われる様々な会議や打ち合わせの議事録を、全文記録ではなく要約版で残すことが業務効率を向上させると考え、音声認識で得たデータを生成AIにかけて要約版の議事録を作成することにしました。これを市役所内で展開するため、ガイドラインの作成と市議会だけでなく市役所でも使用できるシステムの開発を依頼しました。

生成AIの活用で議事録や行政文書作成の効率化

Q:実際に生成AIを組み込んだシステムをどのように活用していますか?

松﨑さん:現在、各課では全職員が利用できる環境が整っています。その中で、特に多く活用されているのは議事録の作成です。要約を作成する目的での使用が多くなっています。

また、主に市議会の答弁書の素案作成や、参考資料としての活用、各種挨拶文の作成、市民からのお問い合わせへの回答の素案作成などに活用されています。

Q:生成AIを業務で運用する上で注意していることはありますか。

松﨑さん:私たちはいつも「最後は人間の目で確認する。だから私たち職員が必要なのだ。」ということを徹底しています。生成AIは副パイロットであり、安全な目的地まで飛ぶための情報を提供し、それを基に職員がパイロットとして正しい判断を下すことが重要です。他の職員にも生成AIが完全なものではないために私たちの役割があるということを説明しています。

利用した職員の約半数が業務時間を50%以上削減できたと回答

Q:現在のシステムの利用状況を教えてください。

岩﨑さん:現在の参考情報として、6月から11月までの約半年間でシステムへのログイン回数が4,600回、入出力のトークン数が1億8,000万文字となっています。入力と出力を半分ずつとすると、約9,000万文字が生成された計算になります。

Q:生成AIの導入による業務時間短縮など具体的な効果は出ていますか?

岩﨑さん:議事録作成については、約4,700時間分の要約や校正作業に活用されています。これは1ページを5分の会議とした場合の換算です。職員に実施したアンケート結果では、利用した職員の約半数が50%以上作業時間が削減されていると感じているという状況です。

デジタル化推進室の職員が講師となり研修を実施

Q:職員の方の生成AIに関する教育や研修はどのように取り組まれていますか?

松﨑さん:システムが本格稼働する7月に希望する職員を対象に全庁的な研修会を実施しました。その際は市長も研修に参加して、職員と同じように使い方を学びました。

しかし、初めは興味のある職員だけで終わる可能性があったため、その後は部署ごとの細かい単位での研修会を実施しました。全体では約300名の職員に対して個別の研修を実施しました。

まだ全職員が利用しているわけではありませんが、新しい技術であるため、丁寧な説明を行い職員が抵抗なく使えるよう心がけています。

Q:研修の際はどのような方から発信をするのでしょうか。

松﨑さん:最初の導入時の研修については情報管理課長の岩﨑自らが講師を務め、説明を行いました。その後の部署別の研修については、私たちデジタル化推進室の職員が講師役となり、職員に対して周知を行いました。生成AIをより身近なものに感じてもらうため、外部から講師を招くのではなく、あえて内部で講師を育成して研修を実施しました。

Q:職員の研修で心がけていたことはありますか?

松﨑さん:少人数でパソコンを用意し、実際に触りながらの研修を心がけました。話だけではイメージが湧きにくいため、この文書とプロンプトを入力して、出力結果を確認してみてください」といった形で例題を作成して実施しました。実際の作業を通して、多くの職員が参加して理解を深めることができたと考えています。

具体的な注意事項に重点を置いたガイドラインを作成

Q:ガイドライン策定にあたって重視した点を教えてください。

松﨑さん::私たちがガイドラインを作成した時期には、茨城県や県内の自治体も箇条書きの指針的なものしかなく、どう進めていいのかという悩みがありました。

そこで、ガイドラインの要素よりも実際に使う際の注意事項を具体的に羅列することに重点を置き、ガイドラインを定めました。結果として、このガイドラインは、広報を使う際や議事録を作成する際の注意点など、マニュアルに近い指針になりました。

人間味を忘れず、「副パイロット」として生成AIを活用

■職員向け研修会の様子

Q:今後どのような業務に生成AIを活用していきたいですか?

下市さん:現時点においても、既に文書の要約作業等での生成AIの活用により、業務の効率化が図られていますが、今後皆がさらにスキルアップを通じて、新しい使い方が出てくることにより一層の効果が発現することを期待しています。

なお、個人的に注目しているのは画像系の生成AIです。自治体の事務では、事業の概要や関係、将来計画等を説明する際に図で示すことが多くあり、都度作成に時間を要している現状があります。例えば、事業の説明文やキーワードを入力することで、過不足なく全ての情報を網羅しつつ、誰にでもわかりやすい図が容易に作成できれば、劇的な効果が期待できるのではないでしょうか。

また、政策立案に際して素案作成などに生成AIが活用されると、私たちの業務の幅も広がっていくでしょう。政策立案においては、地域単位での住民の社会的・経済的属性といった情報や、市単独のみならず、周辺の市町村の動向といった、多くの情報領域を考慮する必要があります。これまでの職員の経験や現場での肌感覚に加えて、生成AIがこれらを多面的な分析により支援してくれることができれば、より効果的で強力なツールになり得るのではないかと思います。

Q:生成AIを利活用する中で、心がけていきたいことはありますか?

岩﨑さん:副パイロットとして生成AIを活用していくことを忘れずに、我々は取り組んでいきたいと思っています。AIだけに任せると、感情のない政策が進んでしまう可能性があるため、この観点を忘れずに今後も取り組んでいきたいと思います。

特に市役所などでは、人間味のないものだけで運営されると不安に感じることがあります。行政には多数派だけではなく少数派も守るという責任があります。商売であれば売り上げだけを目的にすることも可能ですが、行政ではそうはいきません。これは私たち職員が、心を込めて考えなければならないところだと思っています。

■研修講師を務めたデジタル化推進室の若手職員
(左から大津 達矢さん、油原 良亮さん、北林 新太朗さん、江原 由季さん)