生成AI技術を安全に活用し、テクノロジーがビジネスをリードする パーソルホールディングス株式会社

今回は、パーソルホールディングス株式会社のグループデジタル変革推進本部の本部長である朝比奈ゆり子さんと、デジタルEX推進室の室長である上田大樹さんにインタビューを行いました。

多くの情報を取り扱う総合人材サービス企業が、テクノロジー革新とも呼ばれる生成AI技術に対してビジネスの攻めの観点と、プライバシーや個人情報など守りの観点からどのように考えておられるのか貴重なお話をいただきました。また、生成AIの登場によってほぼすべての職種ではたらき方の変化を求められる中、どのような価値提供をしていくのかという思いも伺いました。

生成AIの導入にあたって、「守るべきものを明確にする」などリアルな声もいただき、生成AIの導入を検討されている方にとって必見の内容になります。

ぜひご覧ください。

プロフィール

朝比奈 ゆり子さん

パーソルホールディングス株式会社 グループデジタル変革推進本部 本部長

外資系プロジェクトマネジメントソリューションベンダーにて、製品開発、マーケティング、経理などを幅広く担当。外資系ITセキュリティ会社2社でのCorporate IT部門長を経て、2014年、パーソルキャリア入社。アルバイトサービスのIT責任者に就任。2018年、パーソルホールディングスへ転籍し、新規事業創造・オープンイノベーション推進を担う新会社パーソルイノベーションの法人設立に従事。2020年、パーソルホールディングス グループデジタル変革推進本部 ビジネスITアーキテクト部 部長としてコーポレートIT部門の組織変革を推進。2021年より、現職。

上田 大樹さん

パーソルホールディングス株式会社 グループIT本部 ワークスタイルインフラ部 デジタルEX推進室 室長

移動体通事業の店舗運営/営業7年、ITインフラエンジニア5年、ITサービスマネジメント領域のコンサルティング、セミナー講師3年などの経験を経て、パーソルホールディングスへ入社。入社後は、PC、拠点ネットワーク、TV・Web会議、電話など幅広く社内IT業務のサービスマネジャー業務に従事したのち、アジャイルパイロットチームの立ち上げを経て、2023年10月より、現職。

テクノロジーを正しく活用し、安全かつ安心に価値提供をする

Q:生成AIを導入したきっかけについて教えてください。

朝比奈さん:パーソルグループは2023年度より中期経営計画2026を策定し、その中で「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化を経営の方向性に定めています。パーソルグループにとって新しいテクノロジーの導入は非常に重要な取り組みであり、ChatGPTをはじめとする生成AIのトレンドに沿った動きも必要だというのが、社内向けの生成AI導入に踏み切った理由の一つです。

また、セキュリティ・ガバナンスの観点からお伝えしますと、人材サービス業界では過去にデータの取り扱いについて大きな問題が起こったことがあります。その時に、業界全体で顧客データのビジネス活用やAIの使用が一時停止しました。時代が大きく変化する中でパーソルグループは、テクノロジーの活用が停止していることに対して課題感を持っており、安心かつ安全にテクノロジーを活用できる土台を整備しなければならないという思いから生成AIを業務に活用できる体制の整備を2023年3月頃から本格的に開始しました。

新しい技術を活用していかにビジネスを牽引できるか

Q:生成AIの導入にあたってガイドラインを策定されたようですが、意識したことや注意した点について教えてください。

朝比奈さん:パーソルグループでは多くの情報を保有しているため、入力情報がAIモデルの学習に使用されるようなデータの流出は絶対に避けなければなりません。一方で、ただ単に「ダメだ、ダメだ」と禁止しているだけでは、ビジネスを進めるスピードが損なわれてしまいます。前提として守るべきものを明確にしたうえで、新しい技術を活用することでいかにビジネスを牽引できるか迅速に検討しました。

上田さん:生成AIを社内に導入する際のガイドライン作成については、IT部門に閉じずに法務・コンプライアンス・情報セキュリティ部門からも人を集め、まずはどのようなガイドをしていくべきかという議論から着手しました。その中でも重要なのは、いきなりChatGPTなどの個別サービスに関する利用規定を作るのではなく、一般論としての生成AIのガイドラインを早期に作成したことです。このガイドラインには、使用上の注意事項などを含めた基本的な内容を盛り込みました。

さらに、事業に生成AIを導入することも見据え、ユーザー目線でのガイドラインだけでなく生成AIの機能を搭載したプロダクトを社内で企画する際に、企画者や審査者に対して、どのように生成AIと向き合うべきかといった、より高度なガイドラインも作成しました。

社内に汎用的なGPTシステムと特定の業務に特化したシステムを導入

Q:生成AIの具体的な活用・導入方法について教えてください。

朝比奈さん:パーソルグループでは、まずは社員が安心安全に業務利用できる環境を整えるべく、グループ内の共通ガイドラインとともに、「PERSOL Chat Assistant」というグループ社内ネットワークのみで利用できる汎用的なGPTシステムを設置しました。そして、それとは別に、社内ヘルプデスクや、人事面談など、特定の業務に特化して利用できるシステムも開発しています。

上田さん:「PERSOL Chat Assistant」は、2023年5月頃に開発を開始しました。セキュアにあらゆる業務で利用できる汎用的なChatGPT環境をつくることを目標に、約2週間でプロトタイプの開発を終え、段階的なリリースを行いながら10月には国内グループ全社での共通利用が可能になりました。今後は、社員が生成AIをさらに活用できるようにすることと、リテラシー向上を早期に実現することを目指し、グループ全体に向けた研修やイベントなどの実施も進めています。

朝比奈さん:パーソルグループではAPIを使用した小規模なプロダクト開発も実施しています。グループ会社の中では、たとえばエンジニアが多い組織で、GitHub Copilotを使用したコード生成の試みを早い段階から行っています。また、私たちのグループ会社が提供するサービスでは、会議の議事録の作成や音声からの議事録作成など、社外へ提供するサービスに生成AIを使用することも始めています。さらに、人材サービスの中核となる各種プロセスにおいて生成AIを適用する挑戦や取り組みを多数行っています。

単純な業務時間削減の積み上げではなく、幅広い観点から効果を追求

Q:生成AIの導入効果について、定量的な検証を行っていますか?

朝比奈さん:エンジニアにおける生成AIを活用したコード作成に関しては、個人的な体感値として3割から4割程度の時間短縮があると思います。ただ、我々は多くの分野で生成AIを適用しているため、細かい数値での計測は行っていません。特定の方法で使用すると、削減率を計算しやすいと思いますが、現在は多くのアイデアを実践し、試行中です。

いずれにせよ、適切な場所で生成AIを使用すると、スピードが圧倒的に上がります。パーソルグループには多くの社員がいるため単純に削減した業務時間を積み上げるよりも、プロセスの変更や顧客への提供価値の向上など、より幅広い観点から効果を追求したいと考えています。

中長期的にはほぼすべての職種のはたらき方が変わる

Q:今後の生成AIに対する御社の指針や展望について教えてください。

朝比奈さん:現在、経営トップも生成AIの可能性と脅威を理解し、非常に重要だと認識しています。私は定期的に、グループ内の取り組みや世の中の動向、さらに世の中全体のはたらき方への影響について経営陣とディスカッションを行っています。

パーソルグループとしては、生成AIの登場は社員にとっても、そして世の中のすべてのはたらく人にとっても大きなインパクトがあると考えています。短期的に影響を受ける職種が多く語られがちですが、中長期的にほとんどの職種においてはたらき方が変わると考えています。影響を受けない職種はないことを前提に置き、効率化が進む職種や新たに生まれる職種についても議論しています。これらをビジネス推進に織り込みつつ、未来に向けて新しい技術を取り入れることで、より良いはたらき方を提案していきたいと考えています。

直近では、現在のビジネスにおいて生成AIを含むテクノロジー活用によりさらに高い価値を提供することが目標です。中長期な観点では、“はたらくWell-being”を高めていくことに焦点を当て、生成AIやAIロボティクスと人が協業する世の中で、「人が直接関わること」の価値を最大化する社会を作っていくことをパーソルグループ全体で真剣に考え始めています。