生成AIの活用により広告出稿業務が135時間→35時間 GMOアドマーケティング株式会社

今回は、インターネット広告を主軸に行うGMOアドマーケティング株式会社で、革新的な取り組みを進める代表取締役の渡部 謙太郎さんにインタビューを行いました。

生成AIを活用したサービス「週刊AIプロ野球コンシェル」のリリースを皮切りに、メディアにおける業務の根幹への生成AIの導入についての興味深い話題から、広告出稿業務における時間削減、社内での生成AI活用コンテストの実施、さらには生成AIの使用によって市場競争力を高める仕事の移行に至るまで、生成AIの活用・導入を検討している方々にとって非常に参考になる内容を語っていただきましたので、ぜひご覧ください。

プロフィール

GMOアドマーケティング株式会社 代表取締役社長 渡部 謙太郎さん(左)と事業統括本部 事業開発部 福田 健太さん(右)

生成AIを活用した「週刊AIプロ野球コンシェル」

Q:「週刊AIプロ野球コンシェル」サービスをリリースした背景について教えてください。

渡部さん:GMOアドマーケティングには主にメディアと広告主という2つのステークホルダーがいます。それぞれのステークホルダーに対して生成AIの取り組みを進めており、メディアに関しては、生成AIによる業務の効率化やどのような変化がもたらされるかに注目しています。

今年の5月に当時としてはいち早くお取引先のメディア様をお招きし、メディアの生成AI活用に関するイベントを開催しました。生成AIの活用については、市場がまだ形成されていない中、事例を共有するフェーズであると考えています。そこでスポーツニッポン新聞社(スポニチアネックス)から声をかけていただき、「何か生成AIを活用したプロジェクトをしましょう」という話になり、それが「週刊AIプロ野球コンシェル」のリリースにつながりました。

Q:「週刊AIプロ野球コンシェル」サービスの詳細について教えてください。

渡部さん:「週刊AIプロ野球コンシェル」では、スポーツニッポン新聞社(スポニチアネックス)のサイト上にある野球カテゴリの記事に対して、編集者が質問を考案します。例えば、「西武・長谷川 本塁打量産へ40センチ“ミニバット”導入」といった記事に対し、「西武・長谷川が本塁打量産へ練習に導入した特殊なバットとは?」という興味を引くような質問を編集者が作成し、その質問に対する回答を生成AIが作ります。読者にとって興味をそそる切り口の見出しを見てもらうことでクリック率を増加し、結果として、ページビューの増加につながる事を目指しています。

今後はより深いニーズの記事を生成AIによって提供可能

Q:「週刊AIプロ野球コンシェル」サービスについては、リリースまで紆余曲折があったそうですが、そちらについても教えていただけますか。

渡部さん:元々は、例えば「どの選手がホームランを打ったか」のような質問に答えるチャットボットを作成していましたが、ユーザーからの質問が不完全な場合も多く、正答率が約20%〜30%となっていました。自由な質問に答えるのは難しく、コストもかかるため、編集者がユーザーの興味をひきそうな質問を考え、それに対する生成AIの回答をコンテンツにする方向にシフトしました。現時点では編集者が1から質問を考えていますが、昨日話題になった記事からAIが質問案を考える試みをいま行っているところです。

人と生成AIが共同でコンテンツを作成するこのアプローチは、他にもたくさんの余地があると考えています。将来的には例えば野球のイニングごとのデータを生成AIに入力し、記事を生成させることも考えられます。コストパフォーマンスの観点から、特定の選手やプレーにフォーカスした詳細な記事は作りにくいですが、データと生成AIを利用することで、ファンが推しの選手の詳細な成績やプレーについて理解できるような記事を提供することも可能です。

メディアにおいては業務の根幹に対して生成AIの取り組みを進める

Q:メディアにおける生成AIの利活用についてどのように考えていますか?

渡部さん:現在、メディアにおいて生成AIの利用はまだ初期段階です。スポーツニッポン新聞社さんからもいただいた話として、GPTは不確かな情報を提供することがあり、また直近のデータを活用するのが難しいという問題があります。生成AIは誤った情報を提供するリスクもあるので、現時点では編集者のアシスト役としての使用にとどまっています。しかし将来的には、データを基にした作業を第二段階として取り組みたいと考えています。

さらに今後は、生成AIの活用による実績を基に、より業務の根幹に関わる取り組みを進めたいと考えています。見出しの作成や校正作業など、多くのリソースを消費する業務があります。そこで生成AIを一次チェックとして導入することを考えており、これが実現できればリソースの効率化につながります。私たちにとっては、このような生成AIの活用方法をどのようにビジネスに転化できるかが課題です。将来的にはコンサルティング業務に発展する可能性もあります。メディアがこれらの生成AIの活用によってリソースを効率化できれば大きな成果となるでしょう。

生成AIの活用により、広告出稿業務が135時間→35時間

Q:御社の事業領域であるWeb広告制作における生成AIの活用について教えてください。

渡部さん:特に広告の運用に関しては、生成AIの活用によって自動化が進んでおり、手作業による余地が減少しています。そのため、現在はバナー作成などクリエイティブの作成に注力しています。

最近、「Googleが広告画像生成をAIで自動化する」というニュースが話題になりました。クリエイティブを作るのが人ではなくAIになったとしても、最終的にはクリックした先のLPを含めたユーザー体験をどう設計するかが重要で、そこも含め完全に自動化されるにはまだ時間がかかるとみており、ディレクターと生成AIの共同作業が当面は重要だと考えています。

福田さん:弊社では、自社で「Good!Apps byGMO」(https://good-apps.jp/)というアプリ紹介メディアを運営して広告出稿を行っていますが、クリエイティブ生成、記事生成、画像生成など、多くの作業を生成AIを用いて行っています。これにより、以前は130~135時間かかっていた作業が、現在では35時間程度まで大幅に削減されています。DALL-E 3のようなツールを利用することで、自然言語処理を含むアウトプットを修正し、人の作業と同等の品質を実現しています。

社内で生成AI活用コンテストを実施

Q:生成AIによる業務効率化を実現するための社内教育等の取り組みはありますか?

渡部さん:GMOインターネットグループでは、生成AIの活用を促進するために、社内で生成AI活用コンテストを実施しています。このコンテストでは、プロンプトの例を用いたり、小規模なサービスを開発したりしています。

他にも社内全員に生成AIパスポート(社内試験)を受験させ、リテラシー向上と生成AIの適切な使用が促進されるための様々な取り組みを行っています。

生成AIを使う人々が市場での競争力を高めることで仕事が移行する

Q:最後に生成AIの導入について何が重要だと考えていますか?

渡部さん:生成AIが直接仕事を奪うというよりは、生成AIを使う人々が市場での競争力を高めることにより、従来の方法で仕事をしている人々から仕事が移行していると考えられます。例えば、数年前にRPA(ロボティックプロセスオートメーション)が登場したことで、RPAを使える人とそうではない人では大幅にパフォーマンスに差が出てきています。生成AIもこれと同じで、使えるディレクターやエンジニアなどが、通常の業務を行う人々よりも高い生産性を出せることは明白で、こういった人材を育て増やすことが企業にとって競争優位性を持つことになると感じています。

GMOインターネットグループ全体でも生成AIの使用を推進しています。ただ、すべてのパートナー(社員)が同じレベルで生成AIを使用するのは難しいので、垂直導入を図り、特定のチームが生成AIを積極的に使用し、徐々に全体のレベルを引き上げていくというアプローチを取っています。

また、GMOインターネットグループでは、GMO AI&Web3株式会社を設立しています。AI・Web3ベンチャー支援に特化したハンズオン型コーポレートベンチャーキャピタルです。GMOインターネットグループが培ってきたAI・Web3テクノロジーとプロダクトを新進気鋭のAI・Web3ベンチャーにご提供することで、次世代のインターネットと社会の発展・貢献に向けて活動しています。 今後、生成AIなどのAI技術を活用した新しいサービスを市場に提供しようと考えている企業を支援するために、資金面でのサポートやメンターシップなども提供しています。ご興味をお持ちの企業様がいらっしゃいましたらお問い合わせください。

参考:GMO AI&Web3株式会社