生成AIを2023年4月から導入 筑波大学と連携して独自機能を持つツールを開発 茨城県つくば市

今回は、茨城県つくば市 政策イノベーション部 情報政策課長の飯塚 喜軌さんにインタビューを行いました。

筑波大学と連携して開発された生成AIツールの特長やガイドライン策定、職員向けの研修など、生成AIの活用・導入を検討されている方にとって大変貴重なお話をいただきましたので是非ご覧ください。

プロフィール

飯塚 喜軌さん

つくば市政策イノベーション部情報政策課長。平成14年入庁。

政策審議室政策員、財政課主計員、大規模未利用地活用推進室長などを経て、令和3年より現職。

早期に市長が個人的に利用を開始

Q:生成AI活用を導入された背景を教えてください。

飯塚さん:早期に市長が個人的に生成AIを利用していたことが、そもそものきっかけだと思います。2023年3月下旬に市長の声がけで生成AIの検討グループが庁内で立ち上げられたことが、つくば市としてのスタート地点です。

Q:利用されているチャットボット「AI顧問けんじくん」について教えてください。

飯塚さん:生成AIの活用を早期に開始できたのは、一つには市長の積極的な声がけがありましたが、もう一つの大きな要因は、筑波大学と連携協定を結び、これまでも市の事業に共同で取り組んできていた経緯があることです。生成AI検討グループには、筑波大学教授でつくば市顧問でもある鈴木健嗣(けんじ)先生も参加されており、チャットボットを自ら開発することを提案してくださいました。開発者である鈴木健嗣先生の名前を取り「AI顧問けんじくん」という愛称で利用されています。

自治体用のビジネスチャットツールに生成AIを実装

Q:どのような環境で生成AIを利用しているのでしょうか?

飯塚さん:「LoGo チャット」というビジネスチャットツールにチャットボットを実装し、基本的に全ての部署で利用できるような環境を整えています。「LoGo チャット」は、LGWAN-ASP(Local Government Wide Area Network -Application Service Provider)として提供されているため、インターネットで直接、生成AIを利用せず、市役所内部のネットワークにおいて一定のセキュリティを担保して利用できます。

ーそうすれば、会話履歴や入力データがモデルの学習に利用される心配もないわけですよね。

飯塚さん:チャットボットはAPI連携を利用して生成AIとやりとりをしています。この場合、情報が抽出されて学習に利用されないと言われていることから、情報漏えいのリスクを低くしています。

検索に独自機能を追加

Q:「AI顧問けんじくん」の特長について教えてください。

飯塚さん:「けんじくん」の独自機能として、文頭に「検索:」をつけて質問すると、Google検索を行い、検索結果をもとに回答を生成する機能があります。また、その回答がどの情報源から作られたのかを脚注のような形で示すことができます。これは、MicrosoftのBing AIが持つ機能と同様です。また、通常利用しているモデルはGPT-3.5 Turboですが、文頭に「四:」をつけて質問することで、GPT-4に切り替えて利用することも可能です。

ー情報源がわかることで、ハルシネーション(AIが事実に基づかない内容を出力すること)に対する不安も拭うことができますね。

飯塚さん:仰る通り、そこが役所としては一番に気にかけるところです。99%正しいことを伝えていても、1%間違った情報を伝えると、それだけで市民からの信頼を失ってしまう可能性があります。このため、特に市民に対しては慎重な対応が必要です。

あらゆる業務で生成AIを活用

Q:実際にどのような業務で生成AIを活用していますか?

A::現時点で細かい分析はできていませんが、文書の作成に活用されていることはもちろん、一人ブレインストーミングのようなアイデアや企画の壁打ちのような場面で使用されています。

また、プログラミングの際にバグの特定や、プログラミング技術の向上にも役立てられています。

さらに、部署によっては、英文の作成において、微妙な表現の違いなどについての助言を求めるなどの使用方法もあります。このように、使用方法は非常に多岐にわたっています。

ガイドライン策定と職員向け研修会を実施

Q:生成AIの利用にあたってガイドラインを策定する際、注意したことはありますか?

飯塚さん:使い始める際に、私たちは注意事項として2つのポイントを掲げました。1つは、生成AIは便利ですが、誤った情報を提供する可能性があるので、提供された情報が正しいかどうかは必ず確認すること。もう1つは、API連携で利用しているとはいえ、機密情報を入力しないこと。この2つ注意事項を掲げて、利用を開始しました。

さらに、利用を進める上でリテラシーの向上が必須だと考え、職員向けにリテラシーや利用スキル向上のための研修をこれまで3回実施しています。また、これらを基にし、優良なプロンプトや他の自治体の事例を交えながら、年度内を目安にガイドラインの策定を予定しています。

イノベーションスイッチ制度で官民連携を推進

Q:研修についてはつくば市の情報政策課の方が実施するのでしょうか?

飯塚さん:民間の力を活用しています。つくば市には「イノベーションスイッチ」という制度があります。民間で一般的に利用されているICT技術が行政ではまだ十分に活用されていないという状況を踏まえて、民間事業者からの革新的な提案を受け入れる仕組みです。民間から提案を募り、市でそれを試験運用し、実際に使用した結果を民間にフィードバックすることで双方にメリットがあるような形にしています。

このイノベーションスイッチを通じて、生成AIの利用に関する研修やガイドライン策定のテーマで応募した民間企業がいらっしゃったので、その企業の協力を得て研修を行っています。

ー非常に素晴らしい制度ですね。他にもイノベーションスイッチを通じた事例はあるのでしょうか?

飯塚さん:一番の成功事例はRPA(Robotic Process Automation)だと思います。つくば市は、RPAを本格的に取り組み始めた最初の自治体の一つです。そのきっかけとなったのがイノベーションスイッチになります。

生成AIの積極的な活用によって市民サービスの向上へ

Q:最後に、つくば市での生成AI利活用について今後の展望を教えてください。

飯塚さん:研修を重ねているとは言え、職員のリテラシーや利用頻度については、まだ向上の余地があると考えています。実験的に行ったワークショップ形式の研修が非常に好評だったため、実際にチャットボットを触れながら勉強できるワークショップ形式の研修を一層充実させていくことを計画しています。その結果、「生成AIをこのように使うと便利なんだ」という気付きを与えて、より多くの職員が正しく賢く生成AIを利用することで、業務改善に繋げていくことを目指しています。また、最近ではいくつかの自治体や企業で、内部のナレッジを学習させたAIを活用しようとする動きが見られます。これは、ベテラン職員の知識等をAIモデルに学習させて、有効に活用することを想定したものです。このようなモデルの構築も検討しているところです。

生成AIの活用によって業務を効率化し、さらなる市民サービスの向上につなげていきたいと考えています。