今回は、人材業界で転職、派遣、アルバイト向けの求人サイト運営などを行うエン・ジャパン株式会社様にお話を伺いました。
社内におけるRAGの活用や、自社サービスへの生成AI導入など、社内外に向けた取り組みについて貴重なお話を伺いましたので、ぜひご覧ください。
プロフィール
佐原潤氏
2003年にエン・ジャパン株式会社に入社。
2007年よりプロダクト企画・開発部門にて、プロダクトマネージャーとして
エン転職、エン派遣、ミドルの転職、AMBIといったWebプロダクトの企画・開発・運用を担当。
2024年7月より新設されたAIテクノロジー室にてAIを用活用したプロダクトの開発プロジェクトを推進中。
RAGで社内WIkiと生成AIを連携
Q:社内向けのチャットサービスで、生成AIを活用しはじめたきっかけを教えてください。
A:開発当初、社内における生成AIの活用については、社内情報の入力に制約を設けていました。しかし、実際に生成AIを業務で活用する際には、業務特有の情報など社内情報を入力しなければ期待するアウトプットが得られないことがわかりました。そこで、セキュアに利用できるチャットサービス環境の整備をはじめたのがきっかけです。
Q:生成AIの社内活用について、具体的に教えてください。
A:まず、私たちは『enChat(エンチャット)』というサービスを社内向けにリリースしました。このサービスは、GPT-4を活用しています。また、社内情報の入力が可能で、プロンプトの保存や社内共有機能も実装しています。
また、当社の社内Wikiには、フローやノウハウ資料など、膨大なデータが蓄積されています。しかし、その膨大なデータゆえに検索が難しいという問題がありました。そこで、RAGを用いて、社内WikiのデータをQ&A形式でチャットできる機能を追加しました。
社内Wiki には社内特有の情報がまとまっていますので、それをデータパイプラインにつなげて前処理を行い、精度を確保するようにしました。この部分は技術的に検証を重ねた結果です。
業務効率化の観点から、プロンプトの保存・共有機能が有用
Q:社内での生成AIのユースケースを教えてください。
A:主に社内FAQや業務効率化のために、プロンプトを保存したり共有したりする機能がよく使われています。先週リリースしてから、様々な部署で活用されているという声も多く上がっています。また、『enChat(エンチャット)』の開発当初には、生成AIの利用方法について調査しました。
調査の結果、多くのユースケースがあることがわかりました。業種調査やスカウト文面の生成など、特定のユースケースが繰り返し使われているのも確認されました。また、特定のプロンプトを他の人と共有する動きもあり、それはプロンプトのテンプレート機能によって補助しています。全体的には、業務効率化や議事録の要約、テクニカルスキルの補助などの場面で使われています。
プロンプトについては主に利用者側が作成し、それを部署内やチーム内で共有するケースが多いです。もちろん、こちらでもいくつかのプロンプトは事前に用意していましたが、現場の理解が深い人が作成するテンプレートの方が実用的です。
Q:具体的に人気のあるプロンプトはありますか?あれば教えてください。
A:人気のあるプロンプトについては、まだ先週リリースしたばかりなので、これから詳しく調査していく予定です。ただし、FAQやSQL関連のプロンプトは、特定のテーブル構造を前提とするため、前提情報を保存しSQL生成に使うケースが見られています。
生成AIで職務経歴書を作成する機能により、企業からユーザーが受信するスカウトメールの受信率が58%増加
Q:自社サービスにおいても生成AIを活用しているようですが、具体的にどのように活用しているのかを教えてください。
A:当社が運営するミドル世代に特化した求人情報サイト「ミドルの転職」における職務経歴の自動生成機能として活用しています。この機能は昨年の8月末にリリースしました。業界の中では比較的早い段階での生成AI機能のリリースです。ミドル世代の転職活動は、履歴書作成時に多くの経験や情報を適切に要約するのが難しいという課題があり、履歴書をゼロから作成するのは大変な作業です。そこで、ChatGPTを利用して初期の入力負担を軽減できないかと考え、この機能の企画を始めました。
この機能は、スキルや業務内容に関するタグを簡単に選択し、その情報を元に職務経歴書の要約の草案を生成し、編集するという3ステップです。
具体的には、自分の経歴情報を入力し、キーワードを選んでいくと、履歴書の下書きが生成されます。例えば、UIやUX、SEOなどのキーワードを選ぶことで、職務経歴が自動的に生成されます。その後、生成された内容を編集することができますが、すでに記載済みの内容には上書きせず、挿入する形になります。最終的には手動で編集しなければならず、登録できるのは編集後の内容になります。
この機能を使うことで、「ミドルの転職」で履歴書を作成すると、スカウトメールの件数が58%増加しました。これは、手動で入力するよりも6倍の文字量の職務経歴が作成されるため、企業側がより詳細なレジュメを確認でき、オファーを出す機会が増えるということが関係しているかもしれません。
Q.実際にこの機能を使ったユーザーの声を教えてください。
A:ユーザーインタビューでは実際に機能を利用されたユーザーから「便利だった」という声をいただいています。やはり、自らゼロから作成するのと、生成された下書きをベースに編集するのでは、ユーザーの感じるハードルの高さに大きな違いがあることが分かりました。
Q.「ミドルの転職」以外で、生成AIの導入を検討しているサービスはありますか?
A:生成AIによる職務経歴の自動生成の機能はすでに複数のサイトに展開されています。たとえば、比較的若手向けの「AMBI」や、「エンゲージ」というサイトにも導入されています。本機能に限らず、支持を得られた機能については今後も当社運営する各サービスに展開していく予定です。
今後も生成AIを積極的に活用し、就職活動を支援
Q:今後の展望を教えてください。
A:「AIテクノロジー室」という新しい組織を立ち上げました。これにより、これまでは各プロダクトごとに生成AIを活用していましたが、今後は全社的に生成AI技術を統括し、様々なプロジェクトを進めていきたいと考えています。
また、今後はレジュメ生成や求人検索、対話型の機能など、優先順位をつけて実装を進めていく予定です。具体的な優先順位についてはまだお話しできませんが、今後も積極的にプロジェクトを進めていく予定です。