今回は、ニッセイアセットマネジメント株式会社 専門部長の鹿子木 亨紀さんと、チーフポートフォリオマネージャーの山田 智久さんにお話を伺いました。
資産運用会社でのメールの作成やレポートの解析における生成AIの活用や、生成AI活用コンテストを通じた社内教育など、生成AIの活用・導入を考えている方にとって貴重なお話いただきましたので、ぜひご覧ください。
プロフィール
ニッセイアセットマネジメント株式会社 専門部長
鹿子木 亨紀さん
コンサルティングファーム、運用会社を経て、2020年よりニッセイアセットマネジメントで運用ソリューション開発・デジタル化に従事。
ニッセイアセットマネジメント株式会社 チーフポートフォリオマネージャー
山田 智久さん
大手証券会社入社後、ネット銀行立ち上げを経て、大手小売業にて複数の大型DXプロジェクトに従事。2022年よりニッセイアセットマネジメントにてDX業務に従事。
ChatGPTの注目に伴って社内版GPTを導入
Q:始めに、生成AIを導入した背景を教えてください。
山田さん:生成AIに限らず、AIの研究やPoCは以前から行っていました。データサイエンスを含めた様々な研究を進めていた中で、2022年11月に発表されたChatGPTが大きな注目を集めました。弊社でも、何かしらの形で導入できないかと検討を始め、昨年の8月には社内版のGPTを導入しました。
Q:どのような形で生成AIを活用していますか?
山田さん:8月に導入した段階では「NAM(ニッセイアセットマネジメント)-GPT」という社内版のChatGPTを使えるようにしています。
さらに、直接APIを利用してPythonでの活用も進めています。また、Azure OpenAIのEmbeddingを活用し、関連性の高いデータを検索して業務に役立てています。具体的には、お客様が課題だと思っているような資産運用に関連するワードを入力し、それに近いレポートを取得し、営業活動に活用する実証実験を行っています。
生成AI活用によりメール作成の業務時間を半減
Q:実際に生成AIをどのような業務に活用していますか?
山田さん:レポートやメールの作成に活用しています。画像生成についても、データを基にしたグラフを作成するのは難しいこともありますが、レポートのタイトル内容を基にしたサムネイル画像の作成など、このような用途でもかなり活用されています。
また、レポートを解析し、その要点を抽出して価値ある情報にまとめることやお客様に最適な提案を差し上げること、お客様のニーズや関心点を探っていくことなどに活用しています。
Q:生成AIを業務に活用した効果について教えてください。
山田さん:業務時間は大幅に短縮されており、特にメール作成の効率が上がっています。例えば、文章をサマリーした内容からタイトルをつけるときの時間は半分程度になっていると感じます。また、質に関してもメールの開封率が向上しているところです。
徹底した社内教育の結果、生成AIの活用意欲を高めることに成功
Q:生成AIに関するガイドラインを作成されていますが、ガイドラインを作成するにあたって重視した点はありますか?
鹿子木さん:ガチガチに縛りたくはなく、基本的には創意工夫を活かしていろいろ試してもらうことを重視していますが、金融機関としてお客様のデータを扱っているため、最低限のルールを設ける必要があります。自社開発したセキュアなGPT環境を使っていますが、利用の際には、顧客情報を掲載しない、個人情報を入力しないなど、基本的なルールを設けています。
Q:生成AI活用やガイドラインの周知など、社内教育はどのように取り組まれていますか?
山田さん:弊社では、生成AI活用コンテストというものを実施しました。単にガイドラインがあるだけでは不十分で、リスクについての説明が必要です。そのため、オフラインやZoomでのミーティングを通じて繰り返しレクチャーを行い、周知させました。
例えば、「こういう情報を入力すると問題がある」という具体的な指摘や、Azure OpenAI使っているため情報が使われることはないとはいえ、機密情報は入力しないように注意を促しました。また、生成された成果物の二次利用に関しては、著作権の問題に注意するように指導しました。
このような事例を含めたレクチャーを数回実施し、社内に浸透させていきました。
Q:このような社内教育によって、社内の生成AIに対するイメージはどのように変わりましたか?
山田さん:生成AIについての理解は大きく変化しました。これまでは多くの方がAIを魔法の箱のように捉えていました。例えば、チャットボックスに「Excelファイルを作成してください」と入力すれば、Excelファイルが自動的に作成されると考える方もいましたし、勝手にメールを思い通りに送ってくれると理解している方もいました。そのため、私たちは多くの時間をかけてミーティングを行い、AIの得意分野や発展途中である点についての理解を深めるよう努めました。
社内教育の結果、活用意欲が高まり、600人ほどの社員の中から4、50件ほどの生成AI活用のアイデアが集まりました。皆さんが自分の業務にAIをどのように適用できるかについてのイメージが非常に具体化されたと感じています。
まずは社内向けの活動を盤石に
Q:今後も生成AIを業務に活用する計画はありますか?
山田さん:まず基本的には社内向けの活動をしっかり行い、生成AIを活用するためのリーガルやシステム開発の方法をしっかり構築していきたいと考えています。その後に、社外向けも考慮していきたいと考えています。現在3か年ほどの計画を立てており、最初の1年は社内向けに足場を固め、2年目以降は社外への展開もチャレンジしていく予定です。
1年目は、当社が運営しているBtoBプラットフォーム「NAVIS」での活用を考えています。ここでは金融の専門的かつ高度なレポートや記事の発信を行っており、資産運用会社のあらゆる業務が凝縮されています。「NAVIS」での生成AIやLLM活用を通じて、徐々に社内に生成AIのプロダクトを波及させていく計画を描いています。
鹿子木:山田が申し上げた通りですが、まずは社内での運用を行い、ある程度の実績が築かれた上で、社外向けのサービスを展開したいと考えています。
DX推進室として、生成AIの活用を推進していますが、金融機関として慎重な姿勢やコンプライアンスへの配慮が必要です。そのため、社内での成功事例を作り、それを基に社外サービスの展開を図る計画です。「NAVIS」にAIを組み込むことで、他の分野への応用も容易にすることが戦略の一環です。
ー 生成AIは学習データが重要になると思いますが、御社が持っている専門的な情報が活きるのではないかと思いました。
鹿子木さん:はい。そのようなところを付加価値としての生成AIを活用していきたいと思っています。BtoBのプラットフォームだけでなく、お客様が資産運用アプリのようなBtoCのプラットフォームも持っているため、そこでのチャットボットなどの活用も進めていきたいと考えています。
AIの民主化とともに自身の業務を見直す機会を提供したい
Q:最後に、生成AIに関する取り組みについて今後の展望を教えてください。
鹿子木さん:弊社に限らず、一般的な話として、資産運用会社ではデータに基づく投資を行っています。弊社でも、資産運用をうまく行うためのモデルを作る研究を行うデータサイエンスの専門家が以前から多く存在していました。
しかし、昨年から出現した生成AIによって、AIの民主化が進んでいると感じています。以前はコードを書ける人やデータサイエンスに精通している人だけがAIの恩恵を受けられる状況でしたが、ChatGPTのようなインターフェースが登場し、誰もがAIを使える時代が到来しました。そのため、我々もできるだけ多くの社員にAIを活用してもらい、それによって自身の業務を見直す機会を提供したいと考えています。