めんどくさいをゼロに 生成AIで市民サービスの向上を目指す 岡山県総社市

今回は生成AIを活用した住民向けの対話応答サービス「スマホ市役所」の検証を株式会社Bot Expressと連携して行っている岡山県総社市の総合政策部長の梅田さんにお話を伺いました。

行政において生成AIを活用してどのように住民サービスの向上につなげていくのか、興味深いお話いただきましたので是非ご覧ください。

プロフィール

梅田 政徳さん

総社市総合政策部長。平成20年内閣府入府。経済財政、消費者行政等の分野に従事した後、内閣府副大臣秘書官を経て、令和5年4月より現職。総社市では人口増推進等の重要政策の取りまとめの他、DX推進の役割を担う。

Q. 生成AIの導入に至った背景を教えてください。

梅田さん:総社市は、生成AIを導入する前の令和3年3月に「デジタル変革宣言」を宣言しました。その宣言に基づき、DXの推進を目指す条例を制定し、デジタル変革の取組を開始しました。この取組の中で株式会社Bot Expressとの連携協定を締結し、「スマホ市役所」を開設しました。

スマホ市役所は、連携協定の中で「めんどくさいをゼロにする」というビジョンを掲げ、様々な行政サービスについて市役所に来なくても手続き可能とするなど、市民サービスの向上を目指しています。この協定の中には、「生成AIを活用した住民向けの対話応答サービスの検証」も掲げ、片岡聡一総社市長が生成AIの社会実装に大きな可能性を見出しており、いち早く取り組みたいという思いを持っていることから、積極的に生成AIの活用も図っていくことを考えています。そして、2023年8月18日にそのサービスの一部機能が実装されました。

特に、ChatGPTは昨年から急速に社会に普及しています。私たちは「DX」の分野において、今後「スマホ市役所」のサービスの利便性をさらに高めていく上で、生成AIは非常に有効なツールであると感じており、その考えを基にサービスの設計を進めています。

まずは「マイナ保険証」「給食費相当額の無償化」に関するFAQボットを実装

Q. 「スマホ市役所」にはどのような生成AI機能があるのでしょうか。

梅田さん:生成AIを基盤とした対話応答型のFAQ形式にて、保険証とマイナンバーカードの紐付けを行う『マイナ保険証』に関する質問や『ごみの分別』に関する質問を回答ができるFAQ機能を実装しました。他にも、総社市では独自の子育て世帯への支援策として、未就学児も含めた中学生以下の子供を持つすべての家庭に対して、「給食費相当額の無償化」を本年10月から来年3月まで実施することとしていますが、スマホ市役所において申請機能を持たせるとともに、関連するFAQをGPTの機能を利用して回答する機能を提供する予定です。

技術的に回答精度の改善や市民満足度が得られるかも含めて、どれほどのサービスが実現できるのかはまだ検証段階ではありますが、『保険証とマイナンバーカードの紐付け』に関する問題は社会的にも注目されており、不安を抱えている市民も多いと考えたため、先行的にGPT機能を使ったFAQ対応を実装しました。

現在の生成AIによるFAQ機能は、市役所に関する全ての質問に対応できるわけではありませんが、最終的にはより広範な質問にも対応することを目指しています。現段階では、特定の分野に絞ってFAQ機能を実装していますが、まずは特定分野に情報を絞ることで応答の正確性を高め、より市民が有用と感じてもらえるサービスにすることを重視しています。今後は、利用状況を踏まえた検証を進めて、機能改善や拡張の可能性についても検討していきます。

社会的ニーズが高まる局面で生成AIは効力を発揮する

Q. 生成AIを導入することによって期待される効果を教えてください。

梅田さん:生成AIを用いたFAQ機能については、社会的なニーズが高まる局面では特に効果を発揮すると考えています。例えばコロナ禍の際は、ワクチンに関する情報の問い合わせで電話問い合わせが多く来ていました。このような状況で、生成AIによるFAQボットがコールセンターの役割を果たすことが期待されています。

従来の電話での問い合わせでは、電話が殺到すると話中になったり待ち時間が発生するため、市民にストレスを抱えることにもなりますし、一人当たり約3分〜4分の時間がかかってたとして、生成AIを利用することでその時間が大幅に短縮される可能性があります。その結果、電話の問い合わせ数が減少し、職員の作業効率が向上することが期待されています。

「スマホ市役所」の生成AI活用で行なっている2つのセキュリティ対策

Q. 生成AIでよく議論されているポイントとして「セキュリティ問題・情報漏洩問題」が取り上げられていますが、何か意識しているポイントはありますでしょうか。

梅田さん:私たちは、市民に安全・安心して生成AIを活用していただくためのセキュリティ対策として2つのポイントに着目しています。

まず第一に、生成AIの特徴として、学習を通じて精度を向上させる能力がありますが、この学習機能を活用することで生じるセキュリティや個人情報の漏洩のリスクを完全に排除することができないため、学習機能は無効化して運用しています。

第二のポイントとして、ユーザーに、生成AIの特徴と提供されている機能を十分に理解してもらうことが大切だと考えています。そのため、AIを起動する際の初期画面で、「生成AIで意図した回答が得られない場合がある」、「生成AIはユーザーの情報を学習することはありません」という旨を明記し、使用する前にその事実を確認してもらっています。

生成AIの正しい使い方の理解と適切な運用が重要

Q. 今後、総社市として生成AIはどのような方面での活用を考えているのでしょうか。

梅田さん:総社市として、生成AIの活用において2つの大きな可能性を見据えています。

まず1つ目は市民の皆様の利便性の向上です。私たちが目指すのは、市民の皆様が抱える疑問や問い合わせを手軽にかつ正確に対応するプラットフォームを提供することです。これにより、市役所への電話や直接訪問の必要性を減少させ、市民サービスの利便性向上に繋がると考えています。

2つ目のポイントとして、職員の業務負担の軽減が挙げられます。これは働き方改革の一環でもあり、日常の事務仕事に時間を割くよりも、真に必要な部門や企画の方にリソースを集中できる状態を目指しています。

将来的には、職員のアバターのような存在が対応する日が来るかもしれませんが、それは技術の進展次第です。いずれにせよ、私たちは生成AIを「ツール」として捉えており、市民の気持ちやニーズに寄り添って「生成AIの正しい使い方の理解と適切な運用」をすることが市民の皆様の利便性向上や職員の力を最大に引き出す鍵であると考えています。そのために、総社市としても「生成AI活用のルール」を設定するための倫理委員会を立ち上げました。私たちは、AIを適切に利用し、最大の効果を得るための取り組みを継続してまいります。