生成AI×人財育成  新入社員の教育研修に革命 講師2人で80時間から1人で32時間に コクー株式会社

今回は、「人財」×「デジタル」事業で社会のDX化を支援するコクー株式会社で、生成AI教育部門「コクー生成AI探求ラボ」の立ち上げを行った酒田 絵美さんに、立ち上げの経緯や活動内容、生成AI導入による業務効率化等についてお話を伺いました。

生成AIと人財育成分野の適合性の高さや、生成AIによる教育コストの削減など、貴重なお話を伺いましたのでぜひご覧ください。

プロフィール

酒田 絵美(さかた・えみ)

国内最大手のHR/販促/IT事業会社で新規事業開発とD&I推進分野での経験を積む。「デジタルの力でD&Iがあたりまえの社会を創る」という想いに共感し、2023年にコクー株式会社・人財開発本部人事戦略部の部長として入社。コクー生成AI探求ラボの責任者を兼務。

新規事業での社会課題解決をテーマに、過去に精神障がい者の就業あっせん事業や、子どもの保育園入園を支援する企業横断プロジェクトを立ち上げた経験を活かし、社内の生成AI教育部門の立ち上げと生成AIスキル人財の派遣を通じた企業貢献をめざす。プライベートでは4児の母・IT企業CEOの妻としても日々奮闘している。

生成AIは業務の生産性向上に大きく貢献できると信じ教育部門を発足

Q:「コクー生成AI探求ラボ」を立ち上げた経緯について教えてください。

酒田さん:ChatGPTが世界中で非常に注目を集める中、私からの社内SNSでの発信をきっかけに生成AIに高い関心をもつコクーの有志のメンバーが、生成AIを業務の生産性向上の観点から効果的に自社サービスに取り入れていく必要があると感じ、2023年3月に「AI女子」プロジェクトの検討を開始しました。

「AI女子」のプロジェクト検討を開始すると、最初に大きく二つの発見がありました。一つめは、多くの企業が生成AIの導入に対して懸念を抱いているというマイナス面の発見です。コクーは国内の複数の企業に、派遣として500名以上の社員が常駐しているため、企業の抱える懸念点をいち早く認識することができました。主な理由は、情報漏えいなどのセキュリティ面の懸念や、生成AI自体の仕組みを理解していないことに起因する不明瞭さに対する懸念として顕在化していました。

二つめの発見は、特にコクーのRPA(Robotic Process Automation, 機会による自動化) の領域において、未経験者の育成に生成AIを活用することが非常に適しているというプラス面です。コクーは「EXCEL女子」を始めとする社会のDX化を支援するさまざまな事業を展開しており、DXやITなどの分野での就業経験がない人々を、コクー独自の教育カリキュラムで一段上のスキルや職種へと育て上げることを目指しています。

このコクーが行っている人財の育成という分野においても、生成AIの適合性が特に高いことがわかりました。そこで、いち早く生成AIを活用できる人財の育成に着手するために、生成AI活用の最新情報のキャッチアップと情報共有・教育研修を行う「生成AI探究ラボ」を2023年7月に立ち上げました。

コクー生成AI探求ラボの活動内容

Q:コクー生成AI探求ラボの活動内容を教えてください。

酒田さん:生成AIラボの主な活動内容は、大きく二つの軸に分かれています。

一つめの軸は、マーケットニーズを正確に把握することです。多くの企業がセキュリティ面での懸念を抱えていることが確認されているなか、コクーではすでに複数の企業でAI人財の活用が進行中です。実際、生成AIを活用した業務に従事するメンバーも複数名存在し、複数の業種・業界での具体的な生成AI活用事例が収集できてきました。生成AIマーケットへの浸透度をより深く検討していくことが第一の軸となります。

二つめの軸は、教育の部分です。社内には「コクーアカデミー」という社員による社員のための教育の場が存在し、このアカデミーを通じてさまざまな教育コンテンツやプロンプトの作成を進めています。また、社内SNSを活用して毎日最新の生成AI関連情報を投稿し、社員間での情報共有やフィードバックを活発に行っています。

生成AI分野の情報のキャッチアップは大変ですが、このようなSNSの活用により、社員が楽しく学べる環境を整えるだけでなく、それぞれのスキル習得レベルに応じた教育の進化にも力をいれています。例えば、外部研究員として生成AIのデータサイエンティストに協力をいただき、企業ニーズに合致したよりハイレベルなスキル習得をめざしています。

社員の約半分が「ChatGPT研修 基礎編」を受講

Q:コクー生成AIラボの活動によって、社内状況はどのように変わりましたか?

コクー生成AI探求ラボの発足前は、生成AIを使用したことがある社員は社内でほんの数十人にすぎませんでした。そこで、まずはコクー生成AI探求ラボで研修カリキュラム「ChatGPT研修 基礎編」を作成し、それを社員に受講してもらうという取り組みを行いました。

現在では、社員約600名のうち約280名が「ChatGPT研修 基礎編」を受講している状態です。私たちは、2024年6月末までに全員がこの基礎編を受講することを目標にしています。

新入社員の教育時間が講師2人で80時間から1人で32時間に

Q:コクー生成AI探求ラボで実際に生成AIを活用した結果、業務効率化につながった事例があれば教えていただきたいです。

酒田さん:具体的な事例を挙げますと、以前のRPA(Robotic Process Automation, 機会による自動化)部門では、未経験の新入社員を教育するのに、講師2名で約80時間の研修時間が必要でした。

しかし、ChatGPTで基礎問題を出題したり、特定のスキル強化のための問題を出題するなどしたところ、それまで2人で80時間かかっていた研修が、1人で32時間程度で完了できるようになりました。

自習が可能になったり、講師が常にサポートしなくても学習を進められるというメリットも分かったので、非常に良い事例だなと思っています。

不足するDX人財と生成AIによる生産性向上

Q:最後に、今後生成AIによって社会がどう変わると考えていますか?

酒田さん:「DX人財の不足」というのはもはや業界の共通の認識となっています。2030年には79万人のIT人財不足が試算されています。少子高齢化が進む中での労働人口の減少という背景からも、DX人財の必要性が日増しに高まっています。

このDX人財の絶対的な不足の中で、生成AIの活用は、IT未経験人財の教育や、「一歩先を行くスキル」を活用した生産性向上における鍵となってきます。私たちは、この生成AIを活用できる人財の輩出を使命として、彼らがその力を最大限に活用することで社会に貢献できればと考えています。