今回は、国内外のネットワークを通じてインスタントラーメンからロケットまで、広範な分野において国際的な取引や事業投資を行っている丸紅株式会社様に、同社での生成AIの活用についてのインタビューを行いました。
プロフィール
吉田 元気(写真左手)
丸紅株式会社 デジタル・イノベーション部 データアナリティクス課長
大手IT企業にてデータ分析サービスに携わった後、丸紅へ入社。各種DX推進施策を推進。
芹川 武尊
丸紅株式会社 デジタル・イノベーション部 データアナリティクス課
最適化ソリューションの構築や、生成AIを活用したグループ全社の業務効率化プロジェクトに参画。
金子 亮介(写真右手)
丸紅株式会社 デジタル・イノベーション部 データアナリティクス課
データ分析、時系列予測、生成AI等の技術を活用した丸紅グループの業務効率化・高度化を推進。
伊延 観司
丸紅株式会社 デジタル・イノベーション部 データアナリティクス課
可視化・生成AIを活用した全社業務効率化・高度化推進を支援。
内製で社内向けのチャットボットを開発 迅速に対応できることが内製のメリット
Q:生成AIを導入した背景を教えてください。
A:昨年の3月頃にOpenAIよりGPT-4が公開され、「GPT-4なら業務の効率化・高度化に活用できるのではないか」という話が上がり、社内での生成AI導入を開始しました。
最初に取り組んだのは、現在多くの企業が導入している社内向けのチャットサービスの開発です。当社の「Marubeni Chatbot」は内製で、社内のエンジニアチームのメンバーを中心に、アジャイル開発を得意とする子会社Digital Expertsと連携して開発しています。4月には小規模に展開し、7月には全社に展開、その後順次展開範囲を広げました。現在ではグループ会社も含め約9,200人(2024年9月時点)がこのサービスを活用しています。
また、GPT以外にも、AnthropicのClaude、GoogleのGeminiなど、複数のモデルの中から用途に応じた使い分けが可能で、シンプルなチャットサービスだけでなく、議事録の文字起こしやPDFドキュメントの解析・応答などの周辺的な機能も展開しています。
Q:内製であることのメリットを教えてください。
A:内製の大きなメリットは、社内ユーザーの要望に対し迅速に対応ができることです。生成AIの新しいモデルなどの取り込みや業務に特に適した機能の追加についても、アジャイル開発を進めることで迅速な改善を実現しています。また自社のセキュリティポリシーに合致したアプリの開発も容易です。
元データをAIファーストに整備することでRAGの精度を向上
Q:導入した生成AIツールのユースケースを教えてください。
A:一般的な長文の要約やアイデア出しなどです。また、当社では特に翻訳も組み合わせたユースケースが多くなっています。さらに進んだ活用としては、マーケティングなどに応用が進んでいます。また、RAGと組み合わせることで社内の問い合わせ業務の効率化も進めています。
例えば、バックオフィス系の部署では、基本的にガイドラインやルールブックが整備されており、それに従い営業部や他の部署からの質問に答える業務が多く存在します。そのため、RAGを活用することで大きく業務を効率化できると考えています。
Q:RAGの精度を上げる方法を教えてください。
A:詳細はお話しできませんが、一番力を入れているのはデータの整備です。元データは、AIがない前提で人が読みやすければそれで良いというコンセプトで作られていることが多いのですが、そのデータをAIファーストの構造や言い回しに修正する作業が重要です。
特に、精度が求められる社内の重要文書に関する問い合わせなどでは、こうしたデータ整備は必須の作業となっています。
60%以上のアクティブユーザー率 内製だからこその体制が鍵
Q:社内に生成AIツールがどの程度普及しているか教えてください。
A:グループ全体で見ると、アクティブユーザー率は月間で一度でもアプリを利用したことがある人という意味で約50%です。特に当社に限定すると、60%以上のアクティブユーザー率を達成しています。
Q:生成AIツールのアクティブユーザー率が高い理由を教えてください。
A:生成AIツールを積極的に宣伝しているのが理由の1つだと思います。例えば、GPT-4の発表から約1か月後には、その内容に関する注意点や関連するセミナーを全社に公開しました。その後もアジャイル手法でアプリを開発し、ユーザーが実際に触れて体験できるようにするとともに、アプリの新しい使い方やアップデート情報を、メールや社内SNS、個別部署向けセミナーなどで継続的に発信しています。
また、内製だからこそコミュニケーションを頻繁に取ることができ、改善していける体制がユーザーに安心感や信頼感を与えているという側面もあると思います。
先程述べた通り、内製なのでユーザーの「業務でこれもできないの?」といった無邪気な質問にも迅速に対応することができるのです。例えば、議事録ボットがその一例です。基本的に議事録は生成AIとの直接的な関わりが少ないと思われがちですが、実際には「これで議事録が楽になるのでは?」といった質問がよく寄せられました。
それに応じて、開発チームは新しい文字起こしモデルを組み合わせたプロダクトを試作したり、他にも「Excelなどのファイルを読み込めるようにしてほしい」といった要望に対応したりしました。
大規模な意思決定に生成AIを活用していくことを目指す
Q:生成AI活用に関する今後の展望を教えてください。
A:長期的な視点で見ると、自然言語がこれほど簡単に扱えるようになってきたため、個人・個別業務への貢献を超えて、事業の意思決定にもっと役立てられるのではないかと考えています。よく「データドリブン経営」と言われますが、大規模な意思決定に役立つ生成AIのノウハウの蓄積や能力の発揮の方法について検討を行っています。
また、目先では業務の効率化を支援するために、チャット機能の拡張を行い、メールシステムや社内のファイルシステム、ストレージシステムとの連携を進めることで日常業務に根ざしたツールにしていくことが目標です。
他にも、アクティブユーザー率を上げることも引き続き重要な課題です。一部のユーザーにはチャットや生成AIの利用方法が十分に理解されていない場合があります。そのような人たちにも基本的な使い方や機能をしっかりと伝えることでアクティブユーザー率を伸ばしていきたいです。