生成AI・RAGの導入で業務の効率化を進める コーディングや翻訳業務の作業時間を3割減 東京ガス株式会社

今回は、ガス・電力の供給やエネルギー関連のサービスを提供している東京ガス株式会社様に生成AIに関する取り組みについてお話を伺いました。

プロフィール

DX推進部 DX統括グループ チームリーダー 小代 直毅氏(写真左)

DX推進部 データ活用統括グループ チームリーダー 一色 一希氏(写真右)

グループ全体で生成AIを一気に導入

Q:生成AIを導入した背景を教えて下さい。

A:ChatGPTが話題になり、企業に接続するAPIが公開されると大手企業も次々と利用を始めました。その時期に私たちも検討をスタートしました。生成AIの活用の可能性を急ピッチで模索し、グループ全体でチャットツールを利用することが望ましいと判断しました。

そして2023年7月、生成AIチャットツールを特定の部署など一部ではなくグループ会社を含めてグループ全体に一気に導入することを決定しました。これは生成AIの技術進展の速さと用途の幅広さから、スモールスタートで試すのではなく一気に広めることが重要だと判断したからです。また、その後にRAGについてのトライアルも開始しました。

生成AI活用浸透のため、ユースケースやプロンプト例などを載せたサイトを制作しPR

Q:社内でどのように生成AIが活用されているか教えて下さい。

A:チャットツールのアカウントは希望する社員に配布しているのでさまざまな部署で利用されていますが、特に利用頻度が高いのはアイデア出しや要約、文章レビューなど、チャットベースの使い方にマッチする業務です。

これらの用途が最も多く使われていますが、コーディングや翻訳のサポートとしても利用されています。


Q:どのように生成AIの活用を社内に浸透させたのか教えて下さい。

A:最初は社内に前例がなかったため、事務局が社外事例を取り入れて社員に発信したり、オンラインでの講演会や勉強会を実施しました。他にも、社内イントラにガイドラインやプロンプト例、ユースケース、よくある質問事項などを載せたサイトを設けたり、Teamsにユーザー同士で情報を共有する場としてのコミュニティを作ったりするなど、利用促進を図りました

これらの取り組みにより徐々に社内での利用が広がっていき、若手コミュニティや特定の部署での自主的な勉強会が企画されるまでになりました。

また、このような自主的な勉強会で共有された生成AIの使い方などをヒアリングし、それをグループ全体に広める流れもつくりました。

生成AIの導入により翻訳業務やコーディング業務の作業時間を約3割削減

Q:生成AIの活用は業務効率化の観点からどのくらい効果があったのか教えて下さい。

A:さまざまな業務に利用しているため、全てを把握して定量的に評価しているわけではありませんが、ヒアリングに基づく情報によると、翻訳業務やコーディング業務において特に時間削減の効果が大きく、これらの業務において作業時間を約3割削減できたという報告を受けています。

社内からの問い合わせをRAGで対応

Q:RAGの活用について教えて下さい。


A:昨年度のチャットツール導入と同時に、次なるステップとして、特定領域での活用や他の技術との組み合わせによって生成AIの効果を引き出す取り組みについて議論が始まりました。

そのような中、提案書類や契約書類、業務マニュアル等から効率的に情報を取り出すニーズが顕在化しました。例えば、社内の営業支援担当者が営業パーソンからの問い合わせに対応する場合や、コールセンターのオペレーターがお客さまからの問い合わせに対応する場合です。このような状況から、RAGの活用に向けた検討が開始しました。

Q:具体的にどのようにRAGを活用しているかを教えて下さい。

A: 社内の問い合わせについては、これまで担当者がマニュアル類や質問集を探して時間をかけて回答していたところ、RAGを活用して時間をかけずに回答できるようになりつつあります。

生成AIを業務の一部として自然に使用される事を目指す

Q:今後顧客向けに生成AIを用いたサービスをリリースする計画はありますか?

A:具体的にはこれからですが、技術検証の結果、一部の分野では「これは使える」と判断されているので、そのような分野では将来的に生成AIが直接お客さまと対話する形を目指しています。

また、社外に提供する際には、レスポンシブルAI(責任あるAI)としての提供が必要です。そのため、ガバナンス体制の強化やPoCの体制整備を進めていきます。

Q:生成AIに関しての今後の展望を教えて下さい。
A:中長期的には、業務システムに生成AIをしっかり取り入れて業務の一部として自然に使われるようにするのが目標です。足元では、開発したRAGアプリをうまく使いこなせるよう利用者のリテラシーを高めながら展開していくことが重要だと考えています。