生成AIの検証に参加した職員の8割以上が業務時間削減を実感 沖縄県那覇市

今回は、沖縄県那覇市 企画財務部 企画調整課 DX推進室の長嶺 伶生さんにインタビューを行いました。

同市で2023年8月から9月にかけて行われた生成AIの検証利用の結果や、ガイドラインの策定におけるキーポイントなど、生成AIの活用・導入を検討されている方にとって大変貴重なお話をいただきましたので是非ご覧ください。

プロフィール

那覇市 企画財務部 企画調整課 DX推進室 主事
長嶺 伶生さん

2016年に那覇市へ入庁し、現在は企画調整課DX推進室において、主に生成AIやチャットツール、教育委員会支援を担当。

行政DXの一環として生成AIの導入を検討

Q:DX推進室ではどのような取り組みをされているのでしょうか?

長嶺さん:那覇市では、「行政のDX」を短期的かつ重点的に取り組み、段階的にまち全体をDXにより変革していくことを目指しており、DX推進室はその中心的な役割を担っています。

DXの範囲は広範にわたりますので、「那覇市DX推進計画」に基づいて、市民・事業者視点と職員視点によるDX施策を推進しているところです。具体的には、これまで紙ベースだけで受けていた市民や事業者からの様々な申請を、オンライン申請システムを活用して、場所と時間を問わずに申請できるよう利便性の向上を図っています。また、職員が行う内部事務については、AIやRPAなどを活用して効率化するといった取組を全庁的に進めています。

Q:確かに、非常にニーズの高い分野だと思います。DX推進を行う中で生成AIを導入・活用したきっかけを教えてください。

長嶺さん:ChatGPTが話題に上がり、一般にも広く利用されるようになっている中で、市長から行政分野でどう活用できるかを整理するように指示を受けたことがきっかけでした。

ChatGPTが出たての時期は、「ホワイトカラーの仕事が奪われる」など、その革新性に注目が集まっていましたが、住民情報などの機微な情報も扱う自治体として、ChatGPTを含む生成AIが、実際に本市の業務において有用性があるか、安全性が担保できるかを確認することが重要でした。そのため、生成AIの一般的な効果や課題を整理し、暫定的なガイドラインを設けた上で、2ヶ月間の検証を実施しました。その結果、生成AIは、文章作成やアイデア出し、企画立案など幅広い用途で有用性が確認できたことから、活用方針の策定、本格導入に至りました。

最終的な目的としては、幅広い用途で生成AIを活用し、市役所全体の業務効率化を推進することで、それにより生み出された時間を、更なる行政サービスの向上に繋げていくこととしています。

検証に参加した職員の8割以上が「生成AI活用により業務時間が短縮された」と回答

Q:実際の業務においてどのような活用方法が多いのでしょうか?

長嶺さん:アンケート調査を行った結果、最も多かった回答は文章の作成、要約、校正でした。これらは、業務自体のウエイトが大きいためだと考えています。また、文章の作成だけでなく、コード生成(ワークシート関数、VBA関数など)、アイデア出しによる企画立案やブレインストーミングなどが良く使われた用途として把握しています。

Q:生成AIを活用する中で、業務時間の削減など具体的な効果はありましたか?

長嶺さん:2ヶ月間の検証を通じて、検証に参加した職員の84%が「何らかの形で業務時間が短縮された」と回答し、全体の25%の職員は「1日平均で1時間以上の業務時間が短縮された」と回答しました。また、89%の職員は「今後も生成AIの利用していきたい」と回答しました。残りの11%に関しては、利用したくないと回答したわけではなく、のめり込む具合と精査する時間の関係から「どちらとも言えない」という回答で、マイナスな意見ではありませんでした。

自前で情報をキャッチアップして職員に発信

Q:生成AIを有効活用するための教育や研修は、どのように取り組まれたのでしょうか?

長嶺さん:現在は、民間企業や先行する自治体などの情報も参考にしながら、自前で、職員向けの説明会を開催したり、実際の活用例やプロンプト(生成AIに入力する指示文)のコツをまとめたものを資料としてまとめて庁内周知しています。それを見て実際に少しずつ使ってみてもらう流れです。全庁的に利用を広げ、「こんな使い方もできた」「この使い方良かった」といったノウハウを溜めて、展開することを考えています。

情報入力と生成物の取扱の観点で遵守事項を策定

Q:那覇市では生成AI活用のガイドラインが策定されていますが、作成する際に何か注意した点はありますか?

長嶺さん:私達が懸念していたのは、情報漏洩のリスクや情報の正確性です。わかりませんという回答であればまだ親切といえますが、平気で誤った情報を出力してしまうハルシネーションに対する懸念がありました。

これらを念頭に置き、大きく二つの場面に分けて、ガイドラインの中で遵守事項を定めています。一つ目は情報入力における遵守事項で、個人情報や非公開情報などを扱うことを禁止しています。二つ目はAIの生成物の取扱に関して、根拠や裏付けの確認を徹底し、生成物の利用について本市が説明責任を負うことを明記しています。したがって、生成AIが提供する情報を鵜呑みにせず、最終的な確認を必ず人が行うように定めています。

また、行政専用のセキュアなネットワークから利用することやAPI連携により入力した情報が学習に利用されない形態であることなどのセキュリティ対策を講じています。

DX推進室として生成AIを有効活用できるように注力 さらには高度な取り組みも

Q:最後に、生成AIの活用について今後の展望を教えてください。

長嶺さん:今月から生成AIの本格的な導入を開始しており、まだ走り出し段階です。そのため、今後は運用フェーズに移り、有効性を高める取組に注力していきたいと考えています。職員向けに最新情報の発信や相談対応、有効な事例を集約し、全庁的に展開していきます。

また、生成AI関連は日進月歩であり、より実用性の高い技術も出ているため、そのあたりの最新の動向を注視して、本市業務における活用方策について臨機に見直しを図っていきたいと考えています。