生成AIを使った技術情報検索システムを開発 R&D部門の事務作業削減へ アサヒビール株式会社

今回は、アサヒビール株式会社のイノベーション戦略部 木添 博仁さんにお話伺いました。

生成AIを活用した情報検索システムの概要やその効果、生成AIに関する社内教育など生成AIの活用・導入を検討されている方にとって大変貴重なお話をいただきましたので是非ご覧ください。

プロフィール

アサヒビール株式会社 イノベーション戦略部 副課長 
木添 博仁さん

ビールの発酵技術開発と蒸留酒の開発に従事後、現部署に異動。生成AI等を用いたR&Dの業務改善及び環境に関連する技術開発企画、新価値創造に向けた会議体の運営、採用等に従事。

AIを活用して技術文書の要約を自動生成

Q:生成AI活用した検索システムを導入された背景を教えてください。

木添さん:現在、当社の方針としては、顧客を第一に考えた商品開発を進めており、特に酒類業界においては生ジョッキ缶や未来のレモンサワーなど、イノベーション商品が多数登場しています。

このようなイノベーションをさらに加速させるためには、まず社内での技術知識の共有が不可欠です。特に若手社員にとっては、研究事例や過去の取り組みについて知る機会が少なく、情報を探し出すことが困難な場合があります。

そこで、情報検索を容易にし、周辺情報も手に入れることができる情報サイトの構築のため、ナレッジマネジメントツール「saguroot(サグルート)」を提供する丹青社さんと共同で検索サービスの開発に取り組んでいました。その中で、ChatGPTのような生成AIが注目され始めたため、生成AIを導入した新しい使い方ができる検索サービスの開発に至りました。

Q:今回開発したシステムでは、どのようなことができるのでしょうか?

木添さん:この情報検索システムでは、検索した技術文書の下に自動生成された要約が表示されるようになっています。人間がこれを作成するのは、労力がかかり過ぎるため、生成AIを活用しています。技術文書などは内容が複雑で1つを読むのに時間がかかるため、要約で内容を短時間で把握することでストレスなく検索できるようにしています。

将来的にはチャットボットの導入も考えていますが、情報の質を考慮すると、現在の優先順位としては、各文書の要約を情報サイトで直ちに確認できるようにすることに焦点を当てています。

多くの社員が検索性能が向上したと感じている

Q:実際に活用している社員からの声や感想はいかがでしょうか?

木添さん:「資料がすぐに見つかる」「UIが見やすい」などの声をもらっています。

Microsoftベースの環境で利用しており、全文検索は当社ではできませんが、私たちが使っている「saguroot」は全文検索ができるので便利です。技術系の業務では、特定の化学成分名などピンポイントなキーワードでの検索が頻繁に行われますが、全文検索があると関連性の高い結果を即座に見つけることができますし、周辺情報も組み込まれているため、より広範な情報を入手することが可能です。

Q:生成AIを活用した検索システムの定量的な効果が分かっていれば教えてください。

木添さん:検索時間がどれくらい短縮されたかアンケートを実施したところ、多かった回答が50%程度、次いで75%程度の短縮を感じており、約3分の2程度の社員が検索性能が向上したと回答しています。

商品企画にも生成AIの活用を検討

Q:他にも業務で生成AIを活用している事例はありますか?

木添さん:まだ模索中の段階ですが、MicrosoftのBing Chat(Copilot)を使って商品企画のレベルアップを図っています。まずは、皆さんが興味を持って参加しやすいような形で商品企画のワークショップなどを通じて、新しい技術の使い方に慣れていただこうと思っています。

社内で生成AIの使い方や注意事項を発信

Q:生成AIワークショップのような社内教育はどのように行われているのでしょうか?

木添さん:DX統括部という部署があり、この部署が生成AIの取りまとめを行っています。まず、グループ全体にガイドラインが発信されており、それに基づいて、アサヒビールのマーケティング本部や私たちのような開発部門、R&D部門において勉強会が開かれました。それから私の方で、R&D部門内で商品企画のワークショップを実施したり、生成AIのプロンプトエンジニアリングやChatGPTとBing Chatそれぞれの使い方や情報の取り扱いについて説明したりしています。

Q:ガイドラインの作成にあたって注意したことはありますか?

木添さん:基本的には、積極的に生成AIを活用して欲しいという思いで取り組みを推進しています。ただ、リスクについても周知する必要があり、特に、入力段階での機密情報や個人情報の取り扱いについて誤入力をしないように注意喚起しています。また、生成された出力をそのまま外部に公開することは業務フローに含まれないようにしています。

事務作業を削減して、より多くの時間を研究開発に

Q:生成AIの利活用について、今後どのような取り組みを検討していますか?

木添さん:生成AIを使って、社員の業務時間を減らし、価値創造の業務時間を増やしていきたいです。例えば、資料作成をしなくていい環境にしていきたいですが、OpenAIのサービスが追い付いていない部分もあります。それでも、個々の業務を少しずつ置き換えるためにGPTを使っていきたいと思っています。

開発部門は書く仕事も多いので、事務作業を半分削減することを目標として、研究開発にもっと時間を割けるようにしたいと考えています。