社内検索システム→生成AIによる回答でユーザー体験向上 プロトタイプで効果検証 損害保険ジャパン株式会社

今回は損害保険ジャパン株式会社のDX推進部の石川隼輔さんと原田拓也さんにお話を伺いました。

生成AI導入の背景や、導入にあたってのガイドラインの作成など全社的な取り組み、社内データベースと連携した自社のGPT基盤チャットボットについてなど、生成AI導入にあたって貴重なお話を伺いましたので、ぜひご覧ください。

プロフィール

損保ジャパン DX推進部 開発推進グループ グループリーダー 石川 隼輔さん

損保ジャパン DX推進部 開発推進グループ パーソナルライングループ 課長代理 原田 拓也さん(2023年10月31日取材当時)

エンジニアチームで生成AI使用開始→ビジネスサイドでも活用

Q:生成AIを導入した背景を教えてください。

石川さん:今年の初め頃に、まずはエンジニアチームが生成AIの使用を開始しました。エンジニアがコードを生成AIに書かせることは非常にうまくいっていたのですが、さまざまな用途を試していく中で、ビジネスサイドの人にもかなり役立つのではないかという話になりました。

そして今年の1月や2月には、DX推進部内で勉強会を開催しました。その中では、ビジネスサイド、特に感度の高い人からかなり役立つという意見がありました。そこで、私たちはさまざまなプロンプトを試したり、色々なユースケースを探ったりしました。現在は、この取り組みを部署だけでなく、他の多くの人たちを巻き込んで進めています。

ボトムアップとトップダウンのアプローチ

Q:具体的に生成AIについてどのような取り組みを行なっていますか?

石川さん:私たちは基本的に二つのアプローチを取っています。一つ目は、ボトムアップのアプローチです。これは、さまざまな人々に実際に触れてもらい、実用的なユースケースを探るというものです。これに関しては、私たち自身で社内用のセキュアな環境を持つクライアントを開発しました。これを一部の人に使用してもらい、アンケートを実施しています。その結果から、新しいユースケースを探求している段階です。

二つ目は、トップダウンのアプローチです。DX部門に属するビジネスに精通した人々が、特定の領域で生成AIが役立つ可能性について議論しています。私たちのチームでは、これらのアイデアをプロトタイプにして、現在検証を行っています。

生成AIをコード生成やメール文のドラフト作成で活用

Q:生成AIをどのような業務に活用していますか?

石川さん:現在、私たちが最も頻繁に使用しているのは、エンジニアがコードを書いたり、デバッグしたりする際です。また、一部の人は、顧客との会話の要約、顧客への返信、部下へのメールのドラフト作成などにも利用しています。特に、英語を使用する必要がある場合に非常に役立っています。翻訳や、英語でのニュアンスを考慮する作業などに使われています。

さらに進んだ用途としては、例えば自動車保険の規定集を読み込ませ、保険の適用に関する質問に答えさせるなども行っています。これらは、システムとしてプロトタイプ化されており、さまざまな高度な機能を検証している段階です。

使用する目的を選ぶとあらかじめ設定したプロンプトが表示

Q:社内向けのチャットボットについて教えてください。

原田さん:社内向けのクライアントでは、Azure Open AI Serviceを活用しています。このプラットフォームではオプトアウト申請も行い、基本的なサポート機能を提供する段階にあります。初期ユーザーにとって一からプロンプトを入力することはハードルが高いとわかっているので、使用する目的を選ぶとプリセットで、あらかじめ設定したプロンプトが表示される機能を備えています。

このシステムは現在、1000人近くの従業員に利用してもらっており、実際の利用状況やプロンプトの具体的な使い方を、泥臭くはありますが一つ一つ人の目で確認をして分類しています。その中で、特に人気のある用途に焦点を当て、その目的に合わせて改良を進めています。また、ユーザーがより快適に使えるように、開発チームと毎日協議しながらシステムをアップデートしています。

社内データベースとGPTを連携してユーザー体験を向上

原田さん:また、社内の照会システムという特定のユースケースに特化したプロトタイプも開発しています。このシステムは、例えば社内規程や保険の約款、特定の契約をどのように扱うかなどの情報を検索するためのものです。

これまでのシステムでは、ユーザーの課題解決に適切と思われるQ&Aを複数提示する形で検索結果を提供していました。しかし、この方法では回答群の中から、求める回答を再度探索する必要があり、ユーザー体験において不便を感じる点がありました。そこで、社内のデータベースと連携してGPTを利用することで、質問に対してAIが直接回答を提供し、この問題を解決できると期待しています。

AIが参照したドキュメントを表示してユーザーの疑念を解消

Q:生成AIによる誤解答などのリスクに対する対策について教えてください。

原田さん:生成AIの回答が本当に正しいのかというユーザーの疑念を解消するため、回答のために参照した社内ドキュメントのPDFを表示する機能を追加しています。これにより、ユーザーはAIがどのドキュメントを基に回答を生成したのかを明確に知ることができます。

さらに、回答の正確性についてユーザーからのフィードバックを得るために、回答を評価するボタンも設けました。実際に現場の職員やユーザーがこのシステムを使用し、それが業務に実際に役立つかどうかを評価していただくことで、我々はこれからその効果を検証していく予定です。

経産省と金融庁のガイドラインに準拠しつつ、独自ルールを組み込む

石川さん:生成AIの法的・倫理的な対策に関する全社的な取り組みとしては、大きく二つの取り組みがあります。まず一点目として、SOMPOホールディングスとして共通のAI取り扱いガイドラインの策定を行っています。このガイドラインは、他の企業が制定しているAI倫理規定と大きな違いはありません。しかし、私たちは金融機関として特有の注意点が多くあります。その中で特に重要なのが、経済産業省が発行するAIガイドラインと、金融庁が発行するガイドラインへの準拠です。その上で、当社独自のAIシステム開発フローや実務上のルールを組み込み、既存のガイドラインとどのように統合するかを検討しています。

二点目として、照会対応システムのモデルに対して、Robust Intelligence社が提供するテストを行っています。このテストでは、品質やセキュリティ、倫理面などを考慮し、誤った回答や脆弱性のある回答がないかどうかをチェックしています。生成AIに関するルールを策定しながら、それを実務的かつ実効性のあるものにするためのアクティビティも併せて進めています。

低コストでプロトタイプを作って、先に効果検証を行う

Q:生成AIの導入にあたって重要なポイントはなんだと思いますか?

石川さん:企業がこういうチャレンジングなことに取り組む時に、最初にコストがかかってしまうと、結局結果が出ないと中止せざるを得なくなります。今回のLLMとか生成AIについて、世界で一番すごいAIだけど、必要なのはプロンプトのテキストだけなので、ある意味世界で一番簡単なAIと言えます。そういう意味では誰でも実験できて、特化した凄い人に頼まないと作れないわけでもないため、いかに低コストでプロトタイプを作って先に検証するかがポイントだと思います。 裾野を先に広げるよりも前に、まずはしっかりと効果検証を行うというのが弊社の方針です。

そもそも人間は変化しない方が楽だから、日々が忙しいとなおさら、変化することに対するコストを払う気がなくなってしまいます。そういう中で一部の人達が「生成AIをこんな風に活用すれば、業務を効率化できる」みたいな事を見つけて、その人たちが変化していく様をみんなが見始めると、いい方向に変わっていくんだと思います。