イーロン・マスク氏がCEOを務めるxAI社は、2月20日にGrokシリーズの最新モデルである「Grok 3」を公開しました。
現在Grok3はXのブラウザやアプリ上で、beta版として無料で公開されています。
今回はGrok3の性能や特徴について、実際に使用しながら解説していきます。
ぜひ最後までご覧ください。
Grok3とは
Grok3は、イーロン・マスク氏が代表を務める、xAIが開発した最新の生成AIチャットボットです。
Grok-2の後継として、推論能力や知識面が大幅に向上しており、複数実施されたベンチマークテストにおいても他のモデルを上回る性能を記録しています。
また、現在OpenAIがChatGPTPROプランでのみ限定公開している「Deep Research」や通常よりも推論能力に特化させた「Thinkモード」を搭載しています。
Grok3の性能
2025年2月のリリース時にイーロン・マスク氏は「Grok-3の訓練には前世代(Grok-2)の10倍の計算能力を投入した」と述べており、大規模GPUクラスタ「Colossus(コロッサス)」の約20万基のGPUを活用して膨大な計算量を費やしたとされています。
その結果、モデル規模(パラメータ数)は公表されていないものの、推論や知識の精度は飛躍的に向上しています。
訓練データも拡充され、法律文書など専門領域のテキストも含めて学習しているため、以前より専門的な質問への対応力が増加し、ハルシネーションの発生率が低減しています。
Grok3は技術ベンチマークでも卓越した性能を示しており、複数ベンチマークテストでGPT-o1やDeep Seek-R1を上回る結果を達成したと報告されています。
AIME’25(数学オリンピック相当の問題) | |
モデル | 正答率 |
Grok 3 Beta(Think) | 93.3% |
DeepSeek-R1 | 70% |
GPT-o1(medhium) | 79% |
GPT-o3(high) | 86.5% |
Gemini 2.0 Flash Thinking | 53.5% |
最新の数学競技試験AIME’25では、93.3%の正答率を記録し、博士レベルの科学問題集であるGPQAでも高スコア(84.6%)をマークしています。
・その他のベンチマークテスト結果

引用:xAI
またモデルの大規模化に伴い推論に時間がかかる場合がありますが、その対策として軽量版である「Grok-3 mini」も同時リリースされました。
Grok-3 miniは主モデルより若干精度は劣るものの、その分応答が速く、素早い応答が求められる場面で有用です。
Grok3の5つの特徴
①推論モードの利用が可能
Grok3では、高度な「推論モード」を利用できます。
通常の対話では即座に回答しますが、ユーザーが「Think」ボタンを押すことで「ビッグブレイン(Big Brain)モード」とも呼ばれる深考モードが起動し、難解な問題に取り組む際には時間を割いて慎重に推論を行います。
このモードでは人間が難問に取り組むように一歩引いて考え直したり、ステップを分解して検証したりするプロセスをモデルが内部でシミュレートし、より正確な答えを導き出そうとします。xAIはこの機能を「テスト時計算と推論の強化」と位置付け、大規模な強化学習によってモデルが自ら誤りを訂正したり複数のアプローチを試行したりする能力を高めたと説明しています。
参考:xAI
Grok3はこのように高度な推論戦略を取り入れることで、従来モデルでは難しかった複雑な問題や長い論理の連鎖を必要とする問いにも対応できるようになっています。
②X(Twitter)とのリアルタイム連携
Grokシリーズの強みとして、X(旧Twitter)との連携が挙げられます。
ChatGPTやClaudeは基本的に、事前に学習したデータに基づいて回答しますが、GrokではX上の投稿やトレンド情報に直接アクセスできます。
このため最新の話題やリアルタイム情報を把握した回答が期待でき、実際に2024年4月にはXの「話題まとめ」にGrokが自動生成したニュース要約が採用され、人間の編集者に代わって速報解説を行うケースも登場しています。
③マルチモーダル機能(画像生成にも対応)
Grok3はテキスト対話だけでなく画像生成などマルチモーダルな応用にも対応しています。
2024年末に組み込まれた画像生成モデルAuroraにより、テキストプロンプトから直接画像を得ることができます。

また音声対応も間近に予定されており、マスク氏はGrok3発表時に「1週間以内にマルチモーダルな音声モードを導入する」と予告しています。
これによりユーザーは音声でGrokと対話できるようになり、Googleの音声AIやChatGPTの音声入力機能とも肩を並べることになります
さらにGrokシリーズはPDFや画像ファイルの読み込みにも対応を広げており、文書やスクリーンショットから情報を抽出するなど実用的な場面での活用範囲も広がって行く見込みです。
④Deep Research機能の実装
Grok3では、ネット上のあらゆる文書やWEBサイトをリサーチし、回答を作成する「Deep Reserch」機能が使用できます。
現在この機能はOpenAIのChatGPTであっても、ChatGPTPROプラン(月額200ドル)ユーザーにのみ限定公開されている機能ですが、Grok3では無料で使用できます。
実際に使用してみたところ、OpenAIのDeep Researchとも遜色のない精度と能力を持っているように感じました。

⑤思考過程を表示する
生成AIチャットボットを使用する際、どのような推論・思考過程を得て当該回答が出力されたのか確認できないこともありますが、Grok3ではその推論過程を詳細に確認することができます。思考過程が明記されることにより、安心して生成AI活用を推進することが可能になり、AIの回答を納得して使用することができるようになります。

現在、OpenAIのDeep ResearchやDeepSeekといったモデルも現在推論過程の明示を実装しており、今後のAIモデルでは思考過程を明記することがスタンダードになっていくことも考えられます。
Grok3の活用例
Grok3は汎用的なAIチャットボットとして様々な業界・分野で活用が期待されています。
①法務チェック
Grok3は大量のテキストデータを分析・要約するのが得意なため、ビジネス文書や契約書の要約・チェックに役立ちます。
例えば数十ページに及ぶ契約書でも、128kトークンの長大な文脈を処理できるため一度に読み込んで要点を抽出できます 。また訓練データに法律文書や訴訟記録も含まれていることから、法務リサーチで判例や法令の解釈を質問するといった用途でも専門知識に基づく回答が期待できます 。
②クリエイティブ分野
Grok3はテキストと画像の両面でクリエイティブ業務の補助として活用できます。
文章面では、ブログ記事の下書き作成、キャッチコピーの提案などクリエイティブライティングのアシスタントとして使えます。
ユーザーがプロットの概要を伝えれば、広告用のイメージ画像作成、デザインのラフスケッチ、イラストのアイデア出力など、テキスト指示から様々なスタイルの画像を生成できます。
Auroraは実写に近い高品質な画像を出力できるため、プロトタイプ作成やコンセプトアートの作成にも有用です。従来はデザイナーが時間をかけて行っていた作業の一部を、Grok3に頼ることで迅速に試行錯誤できるようになるでしょう。
③メディア・調査分野
ニュースメディアやリサーチ業務でもGrok3の活用が進んでいます。
SNSのXでは既に速報ニュースの自動要約にGrokが活用され、人手を介さずタイムリーな記事要約が投稿されています 。
企業の競合調査や市場分析では、Grok3のDeepSearch機能を使ってインターネット上の関連情報を収集・要約し、レポート化することが可能です 。
Grok3は専門領域の知識も学習しているため、医療分野での文献調査支援やエンジニアリング分野での技術文書の要約など、専門家のアシスタントとしても活躍することが期待されます。
Grok3の使用料金と商用利用
Grok3は2月21日現在、Beta版が無料公開されているため、誰でも使用することができます。
しかし、今後継続的に使用するためにはXの有料プランである「X Premium+」か「Super Grok」に登録する必要があります。
プラン | 使用できる機能 | 料金 |
X Premium+ | ・Grok3へのアクセス・ポスト数や文字数上限の開放・広告表示の減少 | (Webサイトから課金)月額6,080円年額60,036円(iOSから課金)月額8,000円年額80,000円(Androidから課金)月額8,190円年額80,400円 |
Super Grok | ・Grok3へのアクセス・画像生成数上限アップ・Grok専用アプリ(IOS)・grok.comでの利用が可能 | 月額約4,500円年額約45,000円 |
また、2025年2月現在、Grok3の商用利用に関する情報は明記されていません。
明確な利用可能範囲等が確立されていない状態での商用利用は思わぬトラブルに発展する可能性もあるため、公式から商用利用への言及があるまでは待機する必要がありそうです。
Grok3の注意点
便利で高性能なGrok3ですが、利用にあたって留意すべき制約や課題も存在します。
倫理的な懸念や技術上の限界など、現在指摘されている注意点を以下にまとめます。
①ハルシネーションのリスク
Grok3は高度な知識と推論力を備えるものの、依然として誤答(ハルシネーション)を起こす可能性があります。
他の大規模言語モデルと同様、あたかももっともらしい誤情報を自信満々に述べてしまうケースがあり、事実確認を怠ると誤解を招く恐れがあります。
こうした問題はモデルの改良で軽減しつつあるものの、Grok3の使用においても、得られた回答を鵜呑みにせず人間が検証する姿勢が依然重要です。
特にビジネスや学術用途で重大な意思決定に関わる際は、情報源の引用やクロスチェックを行うことが求められます。
②Xの情報を優先的に取得する
Grok3はX(Twitter)とのリアルタイム連携が強みですが、その特徴ゆえにXの情報を優先的に参照するケースがあります。
X以外のメディアを参照させたい場合は、プロンプトによる指示が必要になります。
③倫理的なリスク
Grok3の高機能ぶりは同時に新たな倫理的課題も提起しています。
例えば画像生成機能のAuroraは有名人のリアルな画像すら生成できてしまうため、ディープフェイク技術のように悪用されたり、名誉毀損を引き起こす可能性があります。
従来のAI画像生成サービスでは倫理的配慮から避けていた領域にも踏み込める分、利用者側のモラルが問われます。
またGrok3はX上の公開投稿を学習に利用していると見られますが、SNS由来の偏見や過激な言説も学習している可能性があります。そのため特定の政治・社会的テーマでは偏った返答をするリスクがあり、初期には自らを「反ワクチン派」だと述べて論文の誤読を披露するなどの問題も指摘されました。
さらに、Grok3が生成したコンテンツの著作権や責任の所在も未整理な部分があります(例えばAIが作成した文章・画像の版権や、誤情報による損害の責任問題など)。
これら倫理・法的課題については、ユーザー企業側でも利用ガイドラインを設けるなど慎重な対応が求められます。
Grok3の今後の展望
Grok3はリリースされたばかりですが、xAIおよび周辺業界における今後の展望として、さらなる機能拡充と競争力強化の計画が示唆されています。
まず直近では、発表時に予告されたマルチモーダル音声モードの実装が期待されています。これにより1週間以内にもユーザーはGrok3と音声で対話できるようになり、ハンズフリーでのAI活用など新たな使い方が広がるでしょう。
また、イーロン・マスク氏はGrok3のAPIも公開する予定であると述べており、幅広い用途に活かせるようになると思われます。
また、Grok3の登場は他のAI開発企業にも影響を与える可能性があり、OpenAIであれば、直近でロードマップが公開されたGPT-5の公開が早まる可能性なども考えられます。
まとめ
今回はGrok3についてご説明しましたが、いかがだったでしょうか。
以下は、本記事の簡単なまとめです。
- Grok3はxAI社が開発した最新生成AI
- 他社のモデルを上回る性能を持っており、Deep Researchやマルチモーダルにも対応
- API公開の予告もされているが、商用利用には注意が必要
Grok3は現在誰でも使用できるようになっているため、ぜひ一度お試しください。