今回は食品卸売業としてメーカー商品を取り扱うとともに、自社ブランド商品の開発、販売を行っている国分グループ本社株式会社様の生成AIに関する取り組みについて取材しました。
生成AIの活用・導入を検討している担当者の方は必見の内容となっています。ぜひご覧ください。
プロフィール
酒井 宏高氏
国分グループ本社株式会社
執行役員 情報システム部長 兼 サプライチェーン統括部業務改革推進部長 兼 デジタル推進部長
石井 大地氏
株式会社グラファー
代表取締役
RPAツールから一歩進め、生成AIにも取り組み開始
Q.生成AIを導入した背景・目的を教えてください。
酒井氏:私たちは「顧客満足度No1」を目指し、さまざまな活動をしてきました。毎年顧客満足度アンケートを実施し、お取引先の満足度を確認しているのですが、昨年、目標としている数値を達成することができました。さらなる高みを目指し、本年度の経営方針のひとつに「顧客満足度1位を超えて、さらに超える」というテーマをあげました。「さらに超える」という部分を達成するために、AIを積極的に活用し、業務を支援するということも1つのミッションとして活動を行っています。
RPAのような自動化ツールは過去から導入していますが、今年から取り組みをさらに一歩進め「業務DXラボ」という組織を立ち上げ、試行錯誤しながら従来型AIと生成AIに関する取り組みを推進しています。
生成AIに関する取り組みとして、2024年4月より、株式会社グラファーが提供する「Graffer AI Solution」を全社員4,500人を対象として導入しました。グラファー社は、生成AI活用の伴走支援、生成AIに関する研修・人材育成、企業向け生成AI活用プラットフォーム「Graffer AI Studio」の提供など、生成AI活用を通じて企業変革を実現する包括的なソリューションを提供しています。
業務生産性向上と社内情報への到達時間50%減を目標
Q.生成AIを導入した目的を教えてください。
酒井氏:導入に向け「生成AIを活用した働き方を、非日常から日常にする」というスローガンを設け、生成AIが毎日の業務に溶け込むことをイメージしながら取り組むことにしました。
例としては、昔、エクセルがなかった時代に「エクセルって何それ? 難しい」と言われていましたが、今では表計算ソフトがなくてはならないものになりました。同様に、新しい技術をしっかりと捉え、生成AIも日常使いできるようにしていこうというスローガンを掲げました。
このスローガンに基づいて、2つの目的・目標を設定しました。
1つ目は壁打ちやアンケートのネガポジ分析など、さまざまな用途に活用することで業務の生産性を高めることです。
2つ目は社内の情報と生成AIを連携して、必要な情報への到達時間を50%削減することです。この2つを掲げて、生成AIの導入を開始しました。
広報部門では文章作成にかかる時間が大幅に半減
Q.生成AIはどのような業務で活用しているのでしょうか。
酒井氏:生成AIの活用については主に、4つの業務で活用を行っています。
1つ目は文章作成の補助です。ゼロから文章を作成する時の補助としてたたきを作る、文章の校正などに対して活用しています。広報部門ではリリース文章の作成やタイトルの表現のアイデア出し、自分の書いた原稿の校正に生成AIを活用することで、大幅な時間の削減ができるようになっています。
2つ目はアイデア出しや壁打ち、評価分析です。お得意先に対する提案時のキャッチフレーズや、POPにどのような商品紹介をつけたら良いかなどのアイデア出し、思考の整理やディスカッションなどで活用しています。
3つ目はコード作成を補助してもらう用途です。例えば、エクセルのVBAの作成補助では、VBAの「V」の字も知らないような新入社員でも、自分がやりたいことをしっかりとプロンプトに書き込むことで、VBAコードを生成し、実行することができます。その結果、業務の生産性が劇的に向上し、これまで4時間かかっていた作業が30分で終わるようになった事例もあります。
4つ目は定性的なアンケート分析です。アンケートのネガポジ分析や分類ラベル付けなどに生成AIを活用し、生産性を高めることを目的に利用しています。
汎用的に使えるテンプレートをデジタル推進部が作成
Q.生成AIの活用を推進するための社内教育について教えてください。
酒井氏:導入時に生成AIが回答を生成する仕組みを全員に説明し、ハルシネーション(生成AIが嘘をつくこと)のリスクなど基本的な知識を共有する研修を行いました。
プロンプトは、汎用的に使えるテンプレートをデジタル推進部が作成し、用途に応じて穴埋めの文言を変えるだけで使えるようにしています。
個人が作成したテンプレートを保存・共有できる仕組みも整備しています。
「この業務で使ったら便利」レベルではなく、生成AI活用を前提に企業の在り方を考える国分グループ
Q.グラファー社から見た、国分グループ様の生成AIに関する取り組みの特徴について教えてください。
石井氏:一般的には、生成AIの活用というと、まず試してみるために法人版チャットGPTのようなものを導入したり、自社で内製することが多いです。そして、まずは特定の業務で試用し、プロジェクトを立ち上げて使い始める企業もあります。
しかし、国分グループさんの場合は、最初から全社的に生成AIを使うことを前提にし、働き方が大きく変わることを見据えて取り組んでいました。
「この業務で使ったら便利だ」といったレベルではなく、「生成AIを使うのが当たり前で、これを前提に企業の在り方を考える」という、より深い視点で取り組まれている点が国分グループさんの取り組みの特徴だと思います。
国分グループの情報を学習させた「国分AI」の実現へ
Q.今後、生成AIに関する取り組みについてどのような展開を考えていますか。
酒井氏:将来的には「国分のAI」を作りたいと考えています。当社は300年続く会社ですので、例えば社史をAIに読み込ませ、新入社員をはじめとするさまざまな立場のメンバーが国分の歴史をしっかり理解し、日々の活動に生かせるようにすることを目指しています。
規定類のQA対応やチャットボットの機能を持ち、例えば規定についての質問に答えられるようにしたいと考えています。私たちの取り扱い商品は、酒類食品と、非常に多くのアイテム数を扱っているため、商品マスタやメーカーが提供する商品情報を、当社営業が組み合わせることで、情報価値を高め、お得意先に提案できるような仕組みを目指しています。
このような視点で周辺業務を補完しながら、業務全体を支援していきたいと考えています。