今回は、宮崎県都城市デジタル統括課の佐藤 泰格さんにインタビューを行いました。
自治体のネットワーク内での生成AIツールの開発事例や、生成AI活用推進のための自治体間の横のつながりなど、生成AIの活用・導入を検討されている方にとって大変貴重なお話をいただきましたので是非ご覧ください。
プロフィール
都城市総合政策部デジタル統括課主幹 佐藤 泰格さん
総務省地域情報化アドバイザー等を務め、自治体DXの推進に尽力している。
生成AIについても、自治体向けシステムの開発を手掛けるほか、自治体向けの研修・ワーク
ショップの講師を務める等、精力的に取り組んでいる。
市役所業務と生成AIに高い親和性を感じていた
Q:生成AIを導入された背景を教えてください。
仕事は多岐にわたり、市役所の職員は異動が多く、定期的な職員の異動に対応しなければいけません。このような環境では、仕事のノウハウの蓄積が難しい面があります。
市役所で日々行う業務には、書類作成や地域イベントでの挨拶文作成など、生成AIとの親和性が高い業務が多いことも踏まえて、活用を検討してきました。
自治体のネットワーク内でも生成AIツールの利用を
Q:利用している生成AIツール「自治体AI zevo(ゼヴォ)」について導入に至った経緯を教えてください。
A:私たちの職場環境では、セキュリティを確保して住民情報を守るために、Googleなどのインターネットサービスを普段から使用できない独自のネットワーク構造になっています。
そのため、従前、生成AIの利用には、インターネットに接続されたPCで生成AIを利用し、生成AIで作成した文章を職場環境に再度移すという手間が発生するため使いづらい環境にありました。
この問題を解決するため、私たちはLGWAN(Local Government Wide Area Network)と呼ばれるセキュリティが高い環境の中で、普段使いができるような生成AIの開発に取り組んできました。これまでLGWAN環境で利用できる生成AIは存在していなかったため、自ら開発を行う必要がありました。そこで、企業との共創により、短期間でシステムを構築しました。
多くの部署が前向きに生成AIを利用している
Q:実際にどのような場面で生成AIを活用していますか?
書類の作成や庁内で公開する計画の作成、挨拶文の作成、住民向けアンケートなど、文章作成に関係する場面が非常に多くなっています。
その一方で、マクロ作成や簡単なプログラミングコードの作成なども行っています。また、職員は異動が多いため、他の人が書いたコードの内容を理解することが難しい場面もあります。このような場面でChatGPTを使って中身を確認して編集したりしています。
Q:市役所内での利用率や生成AIに対する雰囲気はいかがでしょうか?
様々な部署での活用されている印象があり、他の自治体と比べても利用率が高いのではないかと感じています。
実際に、9割程度の課から利用申請が上がってきており、積極的に使用されている状況です。文章作成をあまり行わない部署や、税関連のセキュリティに敏感な部署などは利用が控えめで、残りの約1割を占めています。全体的としては、多くの部署がポジティブに利用申請をしていると感じています。
Q:都城市さんでは生成AIの活用規程が公開されていますが、作成にあたって注意した点はありますか?
生成AIを使ったサービスを利用する際には、総務省や国からの基本的な指針を遵守する必要があるため、国からの通知などを取り組んだ内容にすることを重視しました。
また、生成AIは万能ではなく、様々なウィークポイントもあるためため、これらの点もガイドラインにしっかりと反映し、カバーできるように意識しました。
参考:都城市生成AI活用規程
市内の職員だけでなく、自治体を越えて情報を共有
Q:職員の教育に関してどのような取り組みをしていますか?
今年は研修の予算を確保していなかったため、主に内部で使い方の周知に取り組んでいましたが、私も総務省地域情報化アドバイザー等の中で、生成AIの研修講師を務めていることから、2024年にはワークショップ形式で研修を実施する予定です。
この取り組みに加えて、好事例の横展開や、「zevo」の機能を使って汎用的に使える優れたプロンプトの例を登録して引き出せるようにしています。文章作成やアンケート作成など、利用が多いと思われる業務については、プロンプトの登録を進めています。また、ログを確認して良いと思われるプロンプトについては登録する準備を進めています。
このような取り組みによって利用促進に繋がっていると考えています。
ープロンプトの登録ができるのはいい機能ですね。登録すると他の人も見ることができるのでしょうか?
設定としては、組織内での公開もありますし、組織を超えて他の自治体と共有することもできます。実際に実証実験として約200の自治体ぐらいで使っていて、本格導入が決まっているのが10以上あります。横のつながりが強く、自治体を超えて展開していることが大きなポイントと考えています。
ー他の自治体間のつながりについて、横須賀市が運営している「自治体AI活用マガジン」に都城市さんは参画していますね。
A:自治体間でしっかりと話し合い、事例を共有することが非常に重要だと考えています。横須賀市さんの設立趣旨には全面的に賛同しています。時間がない中でも、良い事例を他の自治体に横展開し、情報を発信することの重要性を認識しています。
今後も様々な生成AIツールを実証中
Q:他にも生成AIを活用した取り組みはありますか?
A:住民向けの会話型ChatGPTに関しては、2月末にリリースしました。また、マニュアルやQ&Aを読み込んだ都城市の独自AIも実証している段階です。このように、単純な生成AIを利用するだけでなく、分野を広げての取り組みを進めています。
Q:住民向けのChatGPTにはどのような活用方法がありますか?
これは、マイナンバーカードを活用した認知症予防サービスの一環として行っているものです。1人で暮らす高齢者の方々は対話の機会が少なく、それが認知症のリスクを高める可能性があります。このサービスでは、日常の些細な会話を通じて高齢者の方々が意識的に活動することが重要です。
例えば、「冷蔵庫にある食材で何を作ろうか」といった会話を通じて、些細な会話を意識してもらいながら、日常生活の質を向上させることが期待されます。こうした生成AIの取り組みが生活の質を上げて行くような良い影響をもたらせばと考えています。
職員でなければできない仕事に注力を
Q:最後に、生成AIの利活用を推進に向けた今後の展望を教えてください。
A:生成AIの利便性を多くの職員に理解してもらい、利用促進を図ることが第一だと考えています。
そして、合理化できる業務は生成AIを活用して合理化したうえで、自治体として直面している様々な課題にたいして、職員でなければできない仕事に注力することが非常に重要だと思います。