今回は、教育の問題をテクノロジーで解決する会社「みんがく」などの代表を務め、教育関係者のためのAI活用セミナーや、東京学芸大学との共同プロジェクトを進めるなど、「生成AI×教育」を中心に多岐にわたる取り組みをされている佐藤さんにインタビューを行いました。
生成AIによって今後教育がどう変わっていくのか、興味深いお話をいただきましたので、ぜひご覧ください。
プロフィール
佐藤雄太さん
筑波大学を卒業し、その後は予備校での勤務を経て、10年以上自身で学習塾を運営。連続して5年、国内大手フランチャイズ塾のトップオーナーに選ばれる。
その経験を活かし、教育の問題をテクノロジーで解決する会社「みんがく」を設立。オンライン学習ツールや家庭向け学習プラットフォームなどのEdTechソリューション「みんがく」を展開し、日本のE-Learning大賞(特別部門賞)やAsia EdTech Summit(AES)での金賞などを獲得。
ChatGPTの出現を受けて、AIの教育分野での活用の前途に早期から注目。そして、業界内で先駆的にChatGPTを取り入れたサービスを開始。さらに、教育関係者のためのAI活用セミナーや、東京学芸大学との共同プロジェクトを進めるなど、現在は「生成AI×教育」を中心に多岐に渡り取り組みを展開。
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なぜ教育に生成AIを取り入れたのか
Q:なぜ教育分野に生成AIを取り入れようと思ったのですか?
佐藤さん:教育分野に生成AIを導入しようと思ったきっかけは大きく3つあって、指導の個別最適化、教育者の労働環境改善、生成AIの登場による教育の変化が挙げられます。
生成AIは「指導の個別最適化」のための最後の1ピース
佐藤さん:教育という分野は、そもそも非常に個別性が高く、ローカル性が強いと思っています。要するに、地域や私たちの教育スタイルなど、一人一人の個性によって、最適な教育は本当に全く異なると思います。指導の個別最適化が近年重要視されるようになってきた中で、柔軟に質問に対して回答することができる生成AIが登場して、最後の1ピースじゃないですけど、これを使わない手はないなと。
生成AIで業務効率化をすることで教育者の労働環境を改善
佐藤さん:もう一つ、教育業界は「ブラックバイト」や「ブラック企業」といった風に言われることが多くて、結局先生のマンパワーで常に運営されているんです。古くからの慣習で、朝から夜、終電を超えるような労働がまだ残っている業界なんですよ。
その結果、徐々に現場が疲弊してしまい、優秀な先生たちが退職するような状況が起こっています。これは業界にとって絶対的なマイナスです。そこを何とかしたいと思ったときに、生成AIの力を利用して生産性を上げる、業務効率化する方法以外に選択肢がないと感じました。
生成AIの登場で教育そのものの形が変わる
佐藤さん:生成AIが普及していく中で、一つの答えを探し求めるような教育は、これから徐々になくなっていくでしょう。それは答えを暗記して、問いに答えるようなスタイルの教育で身につく力は、AIに代替され、そのような力を持っていても評価されなくなるからです。
そのように考えると、大人の人間として、教育サイドに求められることが何かということが重要になってきます。教育が果たすべき役割が、子供たちを社会で活躍できるように育てることであるとすると、今後の大人や社会人、ビジネスが時代とともに変わると、教育の形そのものが変わっていくことはむしろ自然なことです。従って、今までの教育サイドで育てようとしてきた人間像も異なる方向へと進化することになるでしょう。
その変化に先駆けて新しい方法やツールを取り入れ、「次の時代の教育の形とは何か」を早めに理解し、自分自身がこれからの教育の変化に適応できるようにしていきたいと思っています。
生成AIで添削を効率化
Q:実際に教育分野に生成AIを取り入れて実際にどのような取り組みを行っているんですか?
佐藤さん:最初に取り組んだのは、生成AIを使った生徒の学習のフォローです。例えば、私たちは「みんがく」というオンライン自習室のサービスを持っており、生徒と先生がコミュニケーションを取れるようなプラットフォームを運営しているんです。その中に生成AIを組み込みました。具体的には、小論文や作文を出題する際、従来は先生がそれを確認し、添削内容を記入して返却する形でした。しかし、その方法はやはり手間と時間がかかります。そこで、生徒が小論文などを送信した際に、生成AIを用いて「あなたは小論文の先生です」というプロンプトを投げるようにしました。
ただし、その生成結果を直接生徒に返すのではなく、先生がハルシネーション(生成AIによる間違いや嘘)がないか確認をし、あった場合は手直しをするという形にしています。
生成AIのUI・UXを生徒の学習段階に応じて最適化
佐藤さん:生成AIのUI・UXは生徒の学習段階に応じて最適化することが重要です。大人が使うツールのUI・UXと、教育現場でのそれは異なります。学齢によって、中学生であるのか、または高校生、大学受験生であるのかによって、UIのテイストは大きく変わると思います。そのため、各学齢の発達段階に合わせたUIを提供するサービスを開発しています。
具体的には、音声を使った英語の会話トレーニングサービスなどがあります。通常のネイティブ講師との会話のように、マイクでの音声入力とスピーカーを通じた返答をAIが行うサービスです。また、面接練習サービスも提供しており、実際の面接官のように反応して、後からフィードバックやアドバイスも行います。
さらに、カラフル学舎という宮城県大崎市の学習塾さんと共同開発している「NANDE」というサービスは、生徒が疑問に思ったことをすぐに質問でき、AIチューターとの問答形式の対話を通じて、生徒が納得いくまで理解を掘り下げていくことができます。
これらのサービスは、実際にChatGPTを使用しても良いのですが、ChatGPTの使用には一定の制約や要件が存在します。例えば、ある程度の操作知識やアカウントの所有が求められることがあるため、すべての学齢に適しているわけではありません。
教育特化の生成AI基盤を使って教師自身が生徒に最適なサービスを構築
佐藤さん:先ほどもお話ししたように教育は個別性やローカル性が強く、大手企業が開発した教材が、そのままある地域の特定の生徒に最も適しているかというと、必ずしもそうではないケースが多々あります。
そういう時、その現場の課題や、教育現場で発生した問題を目の前で見ている先生が、実際に「本当はこう対応してあげたい」と感じるニーズに応じて、自らサービスを開発する方が効果的です。
最終的には、先生自身がChatGPTなどの基盤を使い、生徒に合わせたサービスを作成できるようになれば面白いと思って今そう言ったプラットフォームを作れればいいなと思っています。
生成AIの登場で生徒が知りたい情報だけを効率よく学べるように
Q:最後に生成AIで今後どう教育は変わっていくとお考えですか?
佐藤さん:今までの教育は、生徒さん1人1人に合わせたいと思いつつ、実際には全員に合わせるのは難しかったんです。例えば、1クラス40人の中で1人の生徒に合わせると、残りの39人が合わせていないという状況になります。
しかし、これからは1人1人にオリジナルのAIチューターを提供し、個別にサポートしてくれるパートナーエージェントのようなものが作成されていくでしょう。その結果、全体の指導やファシリテーションは教壇に立つメインの先生が担当することとなり、個別のサポートはAIが行います。このようにすることで、学習レベルに応じて、基礎から応用まで、生徒が必要とする最適なレベルで解説することができます。
このような、各生徒のレベルに完全に合わせて、効果的に学べる環境は、そう遠くない未来に実現するのではないかと、いや既に実現しつつあるのではないかと感じています。