エンジニア領域で生産性が25〜30%向上…エンジニア組織で活躍する生成AI – 株式会社レコチョク

今回は音楽領域で最先端のIT技術を駆使したサービスを展開する株式会社レコチョクで、生成AIプロジェクトを立ち上げた松嶋さんに取材しました。

生成AIの特にエンジニア領域での活用や、生成AI導入の効果、生成AIと音楽業界についてなど、興味深いお話をいただきましたのでぜひご覧ください。

プロフィール

株式会社レコチョク執行役員 松嶋陽太さん 

大学卒業後、大手システム系企業に就職。その後、学生時代に学んだプログラミングスキルを活かしてフリーのプログラマーとして多くの企業で実績を重ねる。
2009年、レコチョクに入社。サービスの開発・設計を手掛けるエンジニアの内製化の推進、自社サービスのAWS全面移行プロジェクトの責任者を務める。さらに、新たなビジネスチャンスを求め、2021年夏に「web3プロジェクト」を立ち上げ、2022年より「次世代ビジネス推進部」として自社基盤を使ったNFTの提供を開始し、現在はNFTをキーとしたさまざまな可能性を提供している。
ChatGPT登場後はその可能性に注目し、生成AIに関するプロジェクトを立ち上げ、2023年8月には「Azure OpenAI Service」を全社に導入。現在も生成AI活用を推進している。

主にエンジニア領域で生成AIを活用

Q. どのような業務で生成AIを活用しているのでしょうか。

松嶋さん:主に2つあります。1つ目はエンジニアの業務です。特にコーディングの支援やテストコードの作成など、様々な使い方が社内で情報共有されており生産性が向上しています。これが現状、生成AIの活用方法として最も効率的だと感じています。

2つ目は、全社員向けにAzureのOpenAI Service基盤のGPTを導入しており、ガイドラインを設けつつ、自身の業務で必要なタイミングで活用してもらう仕組みを構築しました。

現状はこの2つの使用方法ですが、今後のAIの活用方法については、日頃からディスカッションするようにしています。

生成AIは全社的に取り組むべき課題

Q. 生成AIの導入はどのように推進されたのでしょうか。

松嶋さん:2022年の夏頃に、画像生成AIであるStable Diffusionが登場しました。そして、2022年内にはChatGPTもリリースされ、私もすぐに利用してみました。初めて使用した際、強いインパクトを受け、即座にコードの生成が可能かを検証しました。

2023年にリリースされたGPT-4を使用すると、さらに質の高いコードが生成できることを確信し、社会に大きな影響を与えると直感的に感じました。

それまではエンジニア部門に限って導入することも検討していましたが、これは全社的に取り組むべき課題だと考え、社内横断的なプロジェクトも立ち上げ、導入に向けて検討を始めました。

エンジニアでは25〜30%の生産性向上が見込まれる

Q. 実際に生成AIを導入して効果はありましたか?

松嶋さん:エンジニアが使用し始めてから2ヶ月が経過し、生産性は25〜30%程度向上しているように感じています。ただし、その25〜30%の生産性向上を確実に実現するには、生成AIの開発に関する思考方法や特有の癖も取り入れる必要があります。

この取り入れるフェーズで一時的に生産性が低下することもありますが、生成AIを適切に使うための思考方法を身につけることは、これからの必須スキルだと考えています。エラーが発生した際の対応能力は、その生産性が2倍程度に跳ね上がると言っても過言ではありません。

最終チェックはあくまで人間が行う

Q. 生成AIでよく言われている問題として「ハルシネーション問題」があると思うのですが、どうお考えでしょうか。

松嶋さん:ハルシネーションについては、最終的に人間がチェックを行い、その質を保証しています。コーディングに関しても、適切なコーディング規約を設定すれば、ハルシネーションは一定の範囲内で抑制することができます。私たちは、ハルシネーションを最小限に抑え、最終段階で経験豊富なエンジニアが目視で確認することで、問題なく運用できると考えています。

社内で検証して、サービス化を行う

Q. 今後の生成AI関連サービスの設計の指針などがあれば伺いたいです。

松嶋さん:現在、私たちが使用しているAzure OpenAI Serviceにおいて、ChatGPTを利用していますが、社内のKPIとして「Weekly Active User(WAU)」を設定しており、この指標で導入成果を測定しています。目標としては、少なくとも2週間に1回以上ChatGPTを使用しているユーザーが全体の50%を超えている状態を目指しています。

まだ十分にサービスを活用できていない社員もいるため、GPTを使用して業務効率をいかに向上させるかの方法をワークショップなどの活動を通じて伝え、情報のシェア機能も推進しています。WAUの数値を向上させるための取り組みが成果を上げた後に、その次の段階として、社内で培ったノウハウをもとに、音楽業界のバリューチェーンにおける業務効率化の支援サービスなどを提供することも検討しています。

生成AIは音楽業界にも大きなインパクトを与え得る

Q. 今後、音楽業界において生成AIはどのような影響を与えていくのでしょうか?

松嶋さん:規制がない状態で技術が進行すると仮定すると、市場は非常に大きなインパクトを受けると思います。短期間で誰でも音楽を作成することができ、5年以内にはミュージックビデオ(MV)も自由に制作できる時代が到来すると思います。

ただ重要なのは、「著作権に関する問題」が規制の大きなポイントとなることです。この規制の内容や着地点によって、どれだけのインパクトが生まれるかが決まります。理想的なのは、作品が正当に制作され、二次創作であるかどうかが確認され、適切に対価が還元される「仕組みづくり」が求められます。

生成AIが普及することにより、適切な規制がなされることによってクリエイティビティが拡がり、結果としてマネタイズの機会を増やすことが期待されます。